弘前大学

弘前大学有識者懇談会(平成28年7月8日)

イノベーションの創出と国立大学の役割について

有識者懇談会

 原山優子内閣府総合科学技術・イノベーション会議議員と佐藤敬弘前大学長の対談が本学の郡千寿子理事(研究担当)及び井口泰孝学長特別補佐を交え,平成28年7月8日,弘前大学構内にある「弘大カフェ」(旧制官立弘前高等学校外国人教師館)において行われました。対談では,終始和やかな雰囲気の中,「イノベーションの創出と国立大学の役割について」をテーマに,弘前大学における様々な特色ある研究とイノベーション創出のための取組,国立大学として求められる役割について意見が交わされました。


内閣府総合科学技術・
イノベーション会議議員

原山優子
(はらやま・ゆうこ)


1951年東京都生まれ。スイス・ジュネーブ大学大学院教育学研究科博士課程及び同経済学研究科博士課程修了。2002年4月から2013年2月まで東北大学大学院工学研究科教授,2010年9月から2012年11月まで経済協力開発機構(OECD)科学技術産業局次長,2013年3月から内閣府総合科学技術・イノベーション会議(旧総合科学技術会議)常勤議員に就任,現在に至る。

国立大学法人弘前大学長

佐藤 敬
(さとう・けい)


1950年北海道生まれ。専門・研究テーマは脳血管障害。弘前大学大学院医学研究科博士課程修了。1979年弘前大学医学部に採用。医学部附属脳神経血管病態研究施設長,医学部長,大学院医学研究科長,被ばく医療教育研究施設長,被ばく医療総合研究所長を経て,2012年2月から弘前大学長に就任,現在に至る。


~短命県返上へ向けた弘前大学の取組~

佐藤学長

 青森県は男女とも平均寿命が日本一短いことから,短命県の返上を目指しています。そこで本学では「COI STREAM」による産学官連携,ビッグデータ解析,コホート研究を通じて青森県の平均寿命延伸への挑戦を行っています。短命の要因としては,普段からの食生活のほか,健診受診率のうち特に2次健診受診率が低いことが挙げられます。また,青森県は秋田県に次いで癌の死亡率が高いなど多くの課題を抱えています。
 これらの対策として,本学では弘前市の岩木地区で,「岩木健康増進プロジェクト」を実施し,どういうことが病気に繋がり,どうすれば健康に繋がるのかを企業と一緒になって,住民約1,500人分の健診データを収集しています。そしてその健診データに基づき,企業がライフ関連の製品を作るという流れを構築しています。このような取組を「COI STREAM」として行っていますが,今年で3年目を迎え,先日中間評価を行いました。中間評価の結果はまだ出ておりませんが,これまでは非常に良い評価を頂いていると考えています。


井口学長特別補佐

 65才以上の平均寿命で見ると青森県もそれほど低いわけではありません。つまり40代・50代の死亡率が高いということです。


佐藤学長

 平均寿命で捉えると2才ちょっとの差ではありますが,各年代の死亡率が高いことが問題です。


原山氏

 青森県の平均寿命延伸に対して,どのような取組が行われているのでしょうか。


佐藤学長

 平均寿命の一番長い長野県を参考にしています。長野県には「健康づくり推進員」という制度があり,「自らの健康は自ら守る」という意識を高め,健康づくりのリーダーとして保健予防事業を地域の中で担う人をたくさん養成しています。
 また,県内の各業界でも様々な対策が行われています。例えば,地元の金融機関では,企業による健康増進への取組を支援するため,その取組に応じて金利優遇を行う融資制度を始めたり,最近では,弘前市内のタクシー会社が,出勤時の血圧・体重の測定,点呼時のストレッチを導入するなどの取組が行われています。
 ただ,青森県は塩分の摂取量が多く,平均12g以上も摂取しています。県民はそういった味付けに慣れている部分もあることから,現在,小学校から健康に関する教育を行っています。


原山氏

 小学生に対する健康教育はとても息の長い話。COI STREAMの事業期間中に具体的な成果を得ることは難しいかもしれないですね。


佐藤学長

 岩木地区での健康増進プロジェクトは既に10年経過しており,この先10年20年続けることが必要ですが,COI STREAMを実施している間に,何とかビジネスにつなげられるようにしたいと考えています。大学もそのビジネスにより得た果実によって事業を継続していくことが理想です。

~「地域創生人財」の育成,定着と大学発新産業による雇用創出~

佐藤学長

 弘前大学は平成27年度に文部科学省より「地(知)の拠点大学による地方創生推進事業(COC+)」の採択を受けました。COC+はこの地域に卒業生を残していこうという目的があります。今弘前大学では卒業生の約30%が地元に就職していますが,これを40%にすることを目標にしています。ただ,大学本来の役割は何か?ということに関していえば,社会に人材を輩出することだという意見もあり,目標とする地元就職率40%以外の残りの60%は,全国や世界で活躍する人材を育てていきたいと考えています。
 COC+では,本県の強みであるアグリ(農林水産)/ライフ(医療・健康・福祉)/グリーン(環境・エネルギー)/ツーリズム(観光)の4分野に関するプロジェクトに取り組んでいます。このうち,アグリ関連産業プロジェクトとして,昨年度は世界遺産白神山地の中から分離した「弘前大学白神酵母」を使った日本酒を試験醸造しました。本酵母は非常にデリケートで取り扱いが難しいのですが,醸造元は積極的に販売したいと考えています。


郡理事


 これらは本学の農学生命科学部の先生方が研究し,企業が製品化した実例です。


井口学長特別補佐

 本学では色々とチャレンジをしており,成果が出てきています。


佐藤学長

 本学の農学生命科学部では,果肉まで赤いリンゴ「紅の夢」の生産も行っています。リンゴの赤色はポリフェノールの一種アントシアニンであり,「紅の夢」は皮をむいても果肉からアントシアニンが摂取できます。これもまだブランド化には至っておりませんが,栽培農家も増え,この秋には本学で「紅の夢」のリンゴパイを期間限定で販売する予定です。


原山氏

 それぞれの大学で自分たちに何ができるのか,また生産という意味からいくと,独自のものはあるがどういう風に売り込むか,どう加工するかなどは単純にブランディングというだけの問題ではありません。対応策の一つは,違う視点を持つ人に見てもらうこと。またどういうことが考えられるかということをやってみるというのも一つの方法です。本質的に中味がしっかりしていれば売れると思いがちですが,そうではない世の中になってきています。
 逆に,国際会議の場において常々言われるのが,日本人は自分たちに課題が多いと思っていますが,他国の人たちは日本に追いつこうとしているということです。自分の中の狭い世界に入っていると良さが見えなくなるし,対応策も見えなくなります。
 いつものメンバーで話をしていると,問題点は出てきますが新たな切り口は出てきません。だから例えばイベントのようなオープンな機会を作ってやってみる。そしてフレッシュな学生に小規模でいいので実際にやらせてみる。リンゴは良い例,我々とは違う若い世代の発想がありますし,学生なら失敗が許されます。特に大学の中ではなおさら失敗が許されますが社会人ならばそうはいきません。


~学生や若手研究者の起業を促進し,イノベーションの創出を目指す~

佐藤学長

 本学では,学生や若手研究者の起業を促進するための「弘前大学起業家塾」というものを行っています。各分野の講師による特別講演会のほか,最後は学生によるビジネスコンテストを開催し,ビジネスプランのプレゼンを行っています。優勝チームには本学のレンタルラボを1年間無償貸与しており,それが実際の起業につながることを期待しています。これも原山先生がおっしゃる,一つの実験であると考えています。


原山氏

 COC+による地域貢献といっても必ずしも大学自体がフィジカルに動く必要はありません。動きが広がっていくと大学の知名度が上がるなどの波及効果が出てきます。大学に行くと面白い事ができる,面白い事を応援してくれるというイメージを作ることが大切です。再開発や都市構想は,公的な立場の人達にすべてを任せるやり方から,その中で活動していく若い人達を初めから構想作りに参加させるやり方にシフトしていくことが望ましいと思います。すぐに効果は出ないかもしれませんが,自分達が何かやると何かが変わるという可能性を実感してもらうことが大切です。


佐藤学長

 こういう起業家塾といったものはどういう成果を出すか未知数ですが応援していきたいと考えています。


原山氏

 文部科学省は大きな成果を形として得ることを望んでいると思いますが,それだけじゃないと私は思っています。大学の傘の下でも色々な試みをしていけば,いつか大きな成果が得られるかもしれません。この考えは人づくりにも繋がると思います。

~大学教員に求められる教育の視点とは~

佐藤学長

 教育における一部の大学教員の欠点は,人を育てる視点が希薄であることです。授業をやり研究をして,それを次に伝えていくという視点しかありません。個々の学生を育てようという視点が必ずしも十分でなく,授業だけやって後は余り面倒をみないという傾向があります。


原山氏

 伝えるという点では,別に講義に来なくても今では世界中のおもしろい話は無料で聴くことができます。教員の存在意義は最終的には学生と対話することにあると思っています。構造化された知識以外の部分で,学生の疑問に答えてあげる能力が有るか無いかによって教員の価値が判断されます。それができない教員はいらなくなってしまいます。逆にプレッシャーになると思いますが,そういう事を認識している教員があまり多くないように感じられます。


郡理事

 大学の教育学部が他の学部と違うのは,ただ勉強を教えるのではなく教員を育てる場だということです。知識はネットからでも入手できますが,考えさせる力は教育でのみ育むことができます。


原山氏

 感じ取る力は記憶とは別で,一回刷り込まれると長持ちしますが記憶は低下します。今は外付けメモリがあり,それに頼りすぎてもいけませんが,そこで出来ないのは感じ取る力です。


郡理事

 本学には芸術系の教員がたくさんおり,留学生もたくさんいます。そういう意味では色々な仕掛けができます。


佐藤学長

 青森県の教員採用において,芸術系や技術・家庭科などはほとんどおりません。それでも大学で教員養成をやるという以上は,大学教員をある程度育成しなければなりませんが,学生定員が一桁であり,大学としては非常に効率が悪い部分でもあります。ただ芸術といったものを大学における効率だけでやめてしまったら,この弘前における芸術の空気を支える部分がなくなってしまいかねません。そういう意味では,大学が地域の文化を支えている部分はかなりあると思っています。
 また,今学び直しに大学が対応すると言われていますが,ただもう一回大学生をやるということではなく,これは必要だという学び直しに対応するシステムが必要です。


原山氏

 大学に特論的なコースがあり,普通の学生が興味を持ったら最先端の話を聞けるプログラムなどがあれば面白いですね。また,学生の中に社会人の人達がいると議論が面白くなったりします。日々現場にいる人達であるため,鋭い意見を持っており,学生には非常に刺激になります。


佐藤学長

 本学では,地域の方々の学び直しの場として,「弘前大学グリーンカレッジ」を昨年から開講し,誰でも聴くことができる講義を社会人向けにスタートしました。ニーズがあるかと心配しましたが,50名を超える応募があり,20名位に入学してもらいました。また,再び勉強したいという意欲のある人もそうですが,仕事の上で新たな知識が必要だという社会人もいます。今は学部だけですが,いずれは大学院にも広げたいと考えています。課程の修了を目指すのではなく,勉強したいことを勉強するという制度を拡充したいと考えています。学生の中には課外活動に参加している社会人もいて,若い学生の刺激になっています。


原山氏

 定年を迎え,これからは自分の好きなことを学びたいという人はたくさんいますが,カルチャースクール的なものでは満足しません。本格的な刺激を与える場として大学は必要です。


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      弘大カフェの前での記念撮影

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