弘前大学

人文学部卒業生が「第53回新潮新人賞」を受賞

2021.11.26

『新潮 2021年11月号』(新潮社刊)

このたび、弘前大学人文学部(現、人文社会科学部)を2010年に卒業された久栖博季(くずひろき)さんが、新潮社が主催する純文学の公募新人文学賞「第53回新潮新人賞」を受賞しました。

■受賞者名
久栖博季
■受賞作品 
「彫刻の感想」
■受賞名
第53回新潮新人賞
主催:新潮社 発表誌:『新潮』2021年11月号
https://www.shinchosha.co.jp/prizes/shinjinsho/(新潮社ホームページ)
受賞にあたり、久栖博季さんからコメントをいただきました。


 このたびは、第53回新潮新人賞というすばらしい賞をいただき、うれしく思うと同時に大きな責任を感じています。
仕事に行く前に毎日必ず机に向かって、何かを書いているか書こうとしながら生きています。子供の頃から書くことが本当に好きでした。自由帳の真っ白なページにも工作用の画用紙にも文字を書きつけるのが大好きでした。時には買い物をしたレシートの裏にまでびっしり文字を書きつけます。小説を書いていると自分がそれまで考えたこともなかったことや見たことのない風景に辿りついてしまうことがあって、そのひとつひとつに出会うため、私はこれからも書き続けていきたいです。
学生時代を過ごした弘前の風景が言葉になって、ノートの上にあらわれてくることがあります。講義が終わってアパートに帰る途中の曲がり角で、ふるえながら咲く夕顔の花を見たこと。その同じ時だったか別の時だったか、夕暮れに、だれかの練習するねぷたの笛の音が聞こえたこと。色や音がノートの文字となり、心の中に滲みます。生まれてはじめて金木犀の匂いを知った夏の終わり、駐輪場に停めた自転車のフレームが銀色に光っていました。次々とあらわれてくるそんなこんなの思い出を一気に振り払うような、ねぷた絵師の筆の速く力強い動きがよみがえってきて、これもまた大切な思い出です。ねむりのような、私のにぶい頭の動きで書けるものなんてたかがしれているのかもしれません。ですが、小説の言葉を少しずつかさねていくことで、いつか私というこの未熟な存在を越えていけるかもしれない。今はそんなふうに思っています。今日もこうして書き続けていられることに感謝しつつ結びとしたいと思います。お世話になった先生方、大学職員の皆さまへ、そして「彫刻の感想」という作品に出会ってくださったすべての方々へ、ありがとうございました。

 

久栖さんの受賞作品は、『新潮』11月号巻頭に全文が掲載されています。同時掲載されている「選評」の一つが作品の雰囲気をよく伝えていますので、抜粋して紹介します。「これが受賞作だと思った。(中略)戦争や災害や病気など、非当事者になにを書きうるのかということについて、作者の中で慎重な考慮があったのではないかと思う。そのため、全体に幻視、幻想、憑依、鳥などの異種へのメタモルフォーゼなどの手法が多く取り入れられ、独自の世界をつくりあげている。これに対しては真摯な批評も出たので、今後考慮に入れつつ、ご自分のスタイルを大事にしてほしい(選考委員、鴻巣友季子氏)」
今回の久栖博季さんをはじめ、弘前大学人文学部は小説家として活躍される卒業生を多く輩出しています。最近で言えば、2019年「第1回日本おいしい小説大賞」(小学館主催)を受賞された古矢永塔子(こやなが とうこ)さんはその一人であり(受賞作品は小学館刊の『七度笑えば、恋の味』)、2020年「第73回日本推理作家協会賞」(日本推理作家協会主催)短編部門で受賞された矢樹純(やぎ じゅん)さん(受賞作品は祥伝社刊の『夫の骨』)も卒業生です。
人文社会科学部は、変化の激しい現代社会にあってさまざまな形で文化振興に貢献する人材の育成をミッションの一つとしています。近年の卒業生の活躍は在校生の励みであり、今回のニュースはとても喜ばしいものです。
■弘前大学人文社会科学部ホームページ
http://human.cc.hirosaki-u.ac.jp/jinbun/web/index.html