弘前大学

スーパーボール並みに弾む高含水ゲル材料を開発 〜人工軟骨や水中でも使える衝撃吸収素材に向けた次世代スマート材料に期待~

2026.06.16

プレスリリース内容

本件のポイント

  • 体積の約70%が水でありながら、落下衝撃で高い反発と素早い形状回復を示すゲルを実現。
  • ポリマーの主鎖(幹)から生えた側鎖(枝)の先端を切り替えるだけで、ポリマー同士の結び目(架橋点)が増え、ゲルが一気に硬く・弾む材料に変化。
  • 架橋剤(薬品)を増やして硬くする従来法で起こる脆化や透明性低下を抑えつつ、しなやかさを保ったまま強化できる設計指針を提示。人工軟骨や濡れた環境・水中で使える緩衝材など、次世代スマート材料への応用が期待される。

本件の概要

ゲルとは、スポンジのような網目構造の中に多くの水を抱え込み、柔らかさを保ちながら形を保つ材料です。コンタクトレンズや化粧品などの身近な製品から、人工軟骨・細胞培養基材といった高度な医療応用まで、幅広い分野で注目されています。一方で、水を多く含むゲルは一般に脆く、衝撃や大きな変形に弱いという課題がありました。今回、弘前大学大学院理工学研究科の呉羽拓真助教と岡部孝裕准教授らの研究グループは、水を多く含みながら、スーパーボール並みに弾むゲルを、材料設計の最小限の工夫で実現しました。なお、本研究は、社会実装を視野にWell-beingの実現に寄与するイノベーション創出を目指す、本学グローバルWell-being総合研究所の取り組みの一環としても位置づけられます。本研究成果は英国科学誌「Chemical Communications」にオンライン掲載されました(2026年6月12日)。

研究の背景

ハイドロゲルは「水を多く含む柔らかい材料」として、優れた生体適合性や物質透過性を持ちます。一方で、ゲルを硬くしようとすると、一般には化学架橋注1を増やしてポリマーの網目を密にする必要があり、硬くなる代わりに脆くなる、透明性が落ちる、材料全体が縮んだり崩れたりするなどの副作用が生じます。

また、ゲル材料を補強する手法は多く知られているものの、複数工程や特定成分を要する場合が多く、簡単に作れて、それでいて硬くて弾むという要件を同時に満たす材料設計は容易ではありませんでした。そこで本研究では、ゲル全体の設計を大きく変えるのではなく、架橋されたポリマー主鎖注2に生えた側鎖(枝)注3の先端だけを切り替えるという最小限の変更で、ゲルの硬さと弾性がどこまで劇的に変わるかに挑戦しました(図1)。

図1

図1(左図) 水を含む架橋ポリマーゲル内部の模式図。(右図) 高分子主鎖(幹)から生えた側鎖(枝)の先端にメトキシ基とヒドロキシ基を持つゲルを落下させた際の様子。

発表内容

本研究では、親水性の側鎖(枝)をもつポリマーを架橋したゲル材料に着目し、枝の先端の性質だけを「疎水性寄りのメトキシ基」から「親水性で水素結合できるヒドロキシ基」へ切り替えました。この枝先スイッチにより、ポリマー同士が一時的に結びついてはほどける水素結合注4が増え、ゲル内部に架橋点が多数生まれます。これが、衝撃を受けても壊れにくく、形が戻りやすい「高反発」な挙動につながります。また、本研究は、特別な装置や劇薬を用いず、水溶液中で一段階の簡便な合成プロセスで実現できる点も特徴です。

実際に、作製したゲルを圧縮することで、どれだけ硬いのかを調べたところ、枝先がメトキシ基のゲルでは、硬さ(圧縮弾性率注5)が約0.1 MPaであるのに対し、ヒドロキシ基末端に切り替えたゲルでは最大で約2.0 MPaへと大きく向上しました。これは、押すとすぐへこむスポンジのような感触から、ゴムのように押し返す力が強い感触に近づきます。

つまり、ゲルの作り方を複雑にすることなく、枝先の変更だけで、MPa級の高弾性ゲルを得られることを示しました。さらに、繰り返し圧縮試験などの力学評価を多角的に実施したところ、枝先のヒドロキシ基による水素結合による超分子(物理)架橋注6が働いていることを支持しました。加えて、枝先がヒドロキシ基のゲルがスーパーボール並みに弾む挙動を高速度撮影により観測し、最小の変形で数ミリ秒という速さで形状回復する様子が確認できました(図2)。同じように化学架橋剤を増やして硬くしたゲルでは、硬くはなるものの脆化や不透明化が進みやすいのに対し、本研究の枝先スイッチでは高含水のまま弾性と耐衝撃性を両立できることを確かめました。

図2

図2. 落下したゲルが床に衝突する瞬間を高速度カメラで撮影した様子。側鎖の先端がメトキシ基のゲルは衝突後に大きく変形し(上図)、水素結合できるヒドロキシ基のゲルではほとんど変形せず、高く跳ねる(下図)。

今後の展開

応用面では、荷重を受ける人工軟骨などの軟組織代替材料、繰り返し衝撃を受ける衝撃吸収材、濡れた環境や水中で使用するクッション性材料、さらにはソフトロボティクス部材などへの展開が考えられます。特に、水を多く含むことを前提とする医療・生体材料の領域では、「柔らかさ・含水性」と「強さ・弾性」を同時に満たす材料設計が鍵となるため、本手法の利点が活きると見込まれます。

さらに、本研究で示した枝先スイッチの考え方は、特定のゲルに限らず、従来は脆いとされてきたさまざまなゲル材料に対しても汎用的な強化指針として適用できる可能性があります。将来的には、温度・湿度・化学環境に応答して結合が切り替わる“スマート”な設計と組み合わせることで、用途に応じて性能が変化する次世代ソフトマテリアルの創出につながることが期待されます。特に、水を多く含みながらも強くて弾むという特性は、医療・福祉分野における身体負荷の軽減や安全性向上だけでなく、厳しい環境下で人や機械を支える材料技術として、社会全体のWell-being向上に貢献することが期待されます。

研究支援

本研究は、日本学術振興会(JSPS)地域中核・特色ある研究大学強化促進事業(JPJS00420240013)、JSPS 科研費 基盤研究(C)(25K08748)、科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST「分解・劣化・安定化の精密材料科学」(JPMJCR21L2)、江野科学振興財団 研究助成(田中康之ゴム科学技術賞)の一環として行われました。

用語解説

  • 注1 化学架橋:ポリマー同士を強く固定する結び目を作ること。架橋剤はその結び目を作るための原材料。増やすと硬くなる一方、脆化や収縮・崩壊などの副作用が出ることがある。
  • 注2 ポリマー主鎖:小さな分子が鎖のようにつながったポリマーの背骨にあたる部分。
  • 注3 ポリマー側鎖:主鎖から横に生えた“枝”の部分。枝の先端(枝先)に付く小さな部品(官能基)を変えると、分子同士が引き合う力(水素結合のしやすさ)が変わる。
  • 注4 水素結合:分子同士が弱く引き合う力の一種。強い結合ではなく、結合と解離を繰り返せるため、衝撃を受けたときのエネルギーを吸収しやすい。
  • 注5 圧縮弾性率:材料を押しつぶしたとき、どれだけ変形しにくいか(硬さ)を表す指標。値が大きいほど硬い。
  • 注6 超分子(物理)架橋:共有結合のように固定されるのではなく、水素結合などの弱い相互作用で一時的にできるポリマー同士の結び目。衝撃や荷重によりほどけ、元に戻ると結び直される。

論文情報

■ 雑誌名:Chemical Communications
■ 題名:Supramolecularly interactive terminal side chains enhance robustness of hydrogel materials
■ 著者名:Yuka Wakayama, Taku Sakurai, Takahiro Okabe, Takuma Kureha*
■ DOI:10.1039/D6CC02193J
■ URL:https://pubs.rsc.org/en/content/articlelanding/2026/cc/d6cc02193j

詳細

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お問合せ先

〔研究に関すること〕
弘前大学大学院理工学研究科 助教 呉羽拓真
〒036-8561 青森県弘前市文京町3番地
E-mail:t-kurehahirosaki-u.ac.jp

〔報道に関すること〕
弘前大学理工・農生事務部総務グループ庶務担当
Tel:0172-39-3510
E-mail:r_kohohirosaki-u.ac.jp