弘前大学

安藤 喜一 名誉教授が執筆した「カマキリに学ぶ」が出版されました

2021.09.02

本件のポイント

 弘前大学名誉教授の安藤 喜一 博士が「カマキリに学ぶ(北隆館)」を 2021年8月20日に出版しました。本著は、カマキリの生態を明らかにする中で、一般によく知られた「カマキリの雪予想」について科学的な観点から間違いを指摘しています。多くの写真を示し、安藤名誉教授の研究生活についても織り交ぜながら話が展開するため、一般の人にも分かりやすい内容となっています。

本件の概要

【背景と経緯】
 安藤 名誉教授は、本学を定年退職後にカマキリの研究に着手しました。カマキリは飼育が難しく研究者が大変少ないですが、17 年にわたり研究を続けている安藤名誉教授はまさしくカマキリ先生と言って過言ではありません。安藤名誉教授がカマキリ研究を始めて一年近く経った頃、世間で話題になっていた「カマキリの雪予想」について詳しく知ることになりました。「カマキリの雪予想」とは、カマキリがその年の積雪量を予想して、冬季に雪に埋もれない高さに産卵するというものです。カマキリの卵の位置を調べることで、ヒトも積雪量が推測できるため注目を集めていました。一目で間違いだと気がついた氏は、科学的にお墨付きが与えられ、世間でもマスメディアを通して浸透していた本説について検証を重ねました。実証的な実験や野外調査を通じて得られた結果は、“カマキリの雪予想はありえない ”というものでした。
【書籍の内容】
 安藤名誉教授の野外調査によると、カマキリの卵が積雪よりも高い場所に位置するという傾向はありません。それは、カマキリが産卵する草丈や樹高と相関していました。そもそも雪の下に埋もれても、全く問題なく孵化することも実証されました。また、幼少期の豪雪地帯での生い立ちやスギに対する深い造詣により、本説の問題点について鋭く指摘しています。加えて、なぜそのような間違いが生じたのか、さらに研究社会や一般社会でなぜ受け入れられたのかを、様々な観点から考察しています。雪予想を否定することにより生じた思いがけない苦労や、昆虫の生態学者の日常について垣間見ることができ、研究の世界を知る良いきっかけになると思われます。
【今後の予定・期待】
 安藤 名誉教授による「カマキリの雪予想」に関する反証については、約15年に渡り昆虫学の世界では報告されているものの、一般には多くの人が雪予想を信じています。これはかつて学術界が「カマキリの雪予想」にお墨付きを与えたことも無関係ではなく、その責任の一端があると思われます。テレビやラジオでも真実として時折言及されるため、本著の出版をもってマスメディアの認識も改まることが期待されます。 今回の書籍の題材となった、安藤名誉教授のカマキリ研究は、大学の定年退職後に主に自宅で取り組んだものです。在学中はさまざまな昆虫を研究対象としていましたが、とりわけコバネイナゴの研究は、長年多くの学生と共に取り組んだテーマであり、昆虫学で高い評価を得ています。しかし、それらの知見は青森在住であれば大変身近な話題にも関わらず一般にはほとんど知られていません。今後、安藤名誉教授にはそれらの知見についても書籍としてまとめることが期待されています。
知見例1:コバネイナゴは名前の通り翅が短くて飛べないと一般には考えられているが、安藤名誉教授は学生とともに、大学の屋上に登って、飛翔する本種を何年にも渡りサンプリングしています。つまり本種は上空高くまで飛んでいるということです。
知見例2:冬季の青森は雪に覆われ寒さが厳しいため、コバネイナゴは卵の状態で休眠して冬の寒さをしのいでいると考えられてきました。しかし詳細に研究すると、本種は真冬の寒い期間に休眠していないことが判明しました。イナゴが大繁栄している一因は、特殊な越冬の仕組みに起因しているのかもしれません。

書籍情報

「SCIENCE WATCH カマキリに学ぶ」安藤喜一(弘前大学名誉教授)
定価:3,100 円(本体 2,818 円+税)
発売日: 2021.08.20
A5 判・並製・214 頁・北隆館
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