弘前大学

冬期に積雪下で活動するムカデ類・ヤスデ類の実態を解明

2026.03.18

プレスリリース内容

帯広畜産大学の開澤 菜月(大学院博士後期課程 畜産科学専攻 環境生態学コース)、山内 健生准教授(環境農学研究部門)および弘前大学の中村 剛之教授(農学生命科学部)は、北海道および本州東部の豪雪地帯において、厚く積もった雪の下で活動するムカデ類・ヤスデ類の多様性を世界で初めて明らかにしました。

落とし穴トラップを用いた調査の結果、積雪下からはムカデ類373個体(3目6科)、ヤスデ類385個体(4目7科)が捕獲され、多様なムカデ類・ヤスデ類が積雪下で活動していることが明らかになりました。特にジムカデ目のマツジムカデ科やツムギヤスデ目などの特定のグループの捕獲個体数は、雪が積もる前と変わらないことが示され、寒冷地に適応した独自の生態をもつ可能性が示唆されました。

本論文は、日本土壌動物学会の学会誌『Edaphologia』に、令和8年2月27日に掲載されました。

解説

冬期、積雪下では、温度が約0℃で安定します。動物や菌類の一部の分類群は積雪下で活動しており、積雪下には特殊な生態系が形成されることが知られています。積雪下の無脊椎動物の群集研究は、主に北米、ヨーロッパおよび中国北東部で行われており、積雪下でクモ類、トビムシ類、コウチュウ類、ハエ類などが活動していることが知られていました。ムカデ綱(以下、ムカデ類)およびヤスデ綱(以下、ヤスデ類)は多足亜門に属し、ムカデ類は捕食者として、ヤスデ類は分解者として、生態系の中で重要な位置を占めています。一般的にムカデ類・ヤスデ類のほとんどの種は冬期の寒さを避けるために土壌中に潜り、冬期はあまり活動しないと考えられていました。

本研究では、2017~2020年の10~4月にかけて、北海道5地点(上川総合振興局2地点、十勝総合振興局1地点、石狩振興局1地点、檜山振興局1地点)、本州東部6地点(青森県2地点、岩手県1地点、山形県1地点、新潟県1地点、長野県1地点)において、落とし穴トラップ(図1–2)による調査を実施しました。雪が降る前(10~11月頃)にそれぞれの調査地にトラップを10個ずつ設置しました。積雪層が十分に形成された時期(12~2月頃)に、雪に覆われた地表のトラップを掘り起こして捕獲された虫を回収し、新しいトラップに交換しました。そして、雪解けの前(3~4月頃)に再び雪を掘り返してトラップを回収しました。

その結果、積雪下からはムカデ類373個体(3目6科)およびヤスデ類385個体(4目7科)が捕獲され、多様なムカデ類・ヤスデ類が冬期に積雪下で活動していることが明らかとなりました。これらの分類群のうち、オオムカデ目、マツジムカデ科およびナガズジムカデ科(ジムカデ目)、ゲジムカデ属(イシムカデ目トゲイシムカデ科)、ジヤスデ目、ミコシヤスデ科、ヤリヤスデ科およびMacrochaeteumatidae科(ツムギヤスデ目)、ホタルヤスデ 科(ヒメヤスデ目)、フジヤスデ属(ヒメヤスデ目ヒメヤスデ科)、モトオビヤスデ属(オ ビヤスデ目オビヤスデ科)が本研究により積雪下から初めて確認されました。特にマツジムカデ科(ジムカデ目、図3左上)、イシムカデ科(イシムカデ目、図3右上)、ミコシヤスデ科およびヤリヤスデ科(ツムギヤスデ目、図3下)の4科に属する種が積雪下で優占しました。これら4科の積雪下での平均捕獲個体数は雪が積もる前と比較して変化がなかった一方、オビヤスデ目およびトゲイシムカデ科では、積雪下では捕獲個体数が有意に減少しました。これらの結果より、晩秋に出現し積雪下で活動を継続するグループ、および晩秋に出現するが積雪下ではほとんど活動をしないグループの存在が多足類において初めて明らかになりました。

本研究により、豪雪地帯の厚く積もった雪の下で活動するムカデ類・ヤスデ類の多様性が世界で初めて明らかとなりました。これらの結果は、寒冷地に適応した独自の生態をもつ多足類の存在を示唆するとともに、積雪下の生態系において多足類も主要な分類群であることを裏付けるものです。

本研究は、JSPS科学研究費補助金(科研費)JP23KJ0075および旭硝子財団の助成を受けて実施されました。

図1.落とし穴トラップの断面図。雪と地面の間を歩き回る虫が、地面と同じ高さになるように埋めたプラスチック製バットの中に落ちる仕組みです。バットの周辺にコンクリートブロックを置き、その上にベニヤ板をかぶせることで、バットが雪に埋もれることを防いでいます。バットの中には非誘因性の不凍液(プロピレングリコール)が入っており、バットの中に落ちた虫が保存されます。

図1.落とし穴トラップの断面図。雪と地面の間を歩き回る虫が、地面と同じ高さになるように埋めたプラスチック製バットの中に落ちる仕組みです。バットの周辺にコンクリートブロックを置き、その上にベニヤ板をかぶせることで、バットが雪に埋もれることを防いでいます。バットの中には非誘因性の不凍液(プロピレングリコール)が入っており、バットの中に落ちた虫が保存されます。

図2.落とし穴トラップの回収作業。(左)厚く積もった雪を掘り起こします。雪の下に見えているのはベニヤ板。(右)ベニヤ板の下から落とし穴トラップ(白いバット)を回収します。

図2.落とし穴トラップの回収作業。(左)厚く積もった雪を掘り起こします。雪の下に見えているのはベニヤ板。(右)ベニヤ板の下から落とし穴トラップ(白いバット)を回収します。

図3.積雪下の落とし穴トラップで捕獲されたムカデ類(左上:マツジムカデ科、右上:イシムカデ科)・ヤスデ類(左下:ミコシヤスデ科、右下:ヤリヤスデ科)。雪の下で活動していたことが確認されました。

図3.積雪下の落とし穴トラップで捕獲されたムカデ類(左上:マツジムカデ科、右上:イシムカデ科)・ヤスデ類(左下:ミコシヤスデ科、右下:ヤリヤスデ科)。雪の下で活動していたことが確認されました。

論文情報

■ 発表雑誌:Edaphologia, No.118:1–16
■ 論文名:Centipedes and millipedes under the snow in eastern and northern Japan
■ 著者:Natsuki Hirakizawa(開澤 菜月):帯広畜産大学大学院 博士後期課程 畜産科学専攻 環境生態学コース
    Takeyuki Nakamura(中村 剛之):弘前大学 農学生命科学部附属白神自然環境研究センター 教授
    Takeo Yamauchi(山内 健生):帯広畜産大学 環境農学研究部門 准教授

詳細

プレスリリース本文は こちら(908KB)

お問合せ先

【研究内容に関する問い合わせ】
弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センター 教授 中村 剛之
TEL:0172-39-3707
E-mail:dhalmahirosaki-u.ac.jp

【取材に関するお問い合わせ】
弘前大学 理工・農生事務部 総務グループ総務担当
TEL:0172-39-3748
E-mail:jm3748hirosaki-u.ac.jp