弘前大学

レヴィ小体型認知症や多系統萎縮症における認知症の成因を発見

2025.06.24

プレスリリース内容

本件のポイント

日本では認知症の患者数は400万人以上と推計されており、高齢者の9人に1人が認知症を有しています。認知症の多くは加齢性脳変性疾患によるもので、原因として最も多いのはアルツハイマー病ですが、それに続くレヴィ小体型認知症(dementia with Lewy bodies: DLB)や多系統萎縮症(multiple system atrophy: MSA)に見られる認知症の成因については充分にわかっていませんでした。そこで今回、弘前大学(三木 康生 助教・若林 孝一 教授 研究グループ)が中心となって、新潟大学、立命館大学、名古屋市立大学、英国 University College London と国際共同研究チームを作り、これらの疾患における認知症の成因を実際のヒトの脳を用いて世界で初めて明らかにしました。本研究成果は神経科学のトップジャーナルの一つであるTranslational Neurodegeneration誌(2024 IF=15.2)に2025(令和7)年6月23日付けで掲載されました。

本件の概要

DLBやMSA患者さんは種々の程度の認知症を呈し、これにより生活の質を大きく損ないます。これらの疾患では異常αシヌクレインというタンパク質が脳内に蓄積することが病態に関わります。私達の先行研究で、異常αシヌクレインの中でも特に毒性の強いαシヌクレインオリゴマーという構造がMSAの認知症の発症に関わることを報告してきました(Miki et al. Brain 2020; Miki et al. Neuropathol Appl Neurobiol 2022)。しかし、αシヌクレインオリゴマーが認知機能障害をどのように引き起こすかの詳細な分子メカニズムは かっていませんでした。そこで今回、私達が世界に先駆けて樹立したMSAモデルマウス(Tanji et al. Neurobiol Dis 2019)と多数のヒト剖検脳を用いて調べたところ、以下のことがわかりました(下図)。

1)生理的な環境下では、αシヌクレインモノマーはシナプトタグミン13やSNARE複合体と相互作用し細胞外小胞の分泌に関わる、2)病的な状態になりαシヌクレインモノマーがαシヌクレインオリゴマーに変化すると、αシヌクレインオリゴマーがシナプトタグミン13との異常な相互作用を引き起こす、3)その結果、神経細胞の軸索末端から放出される神経伝達物質を含む細胞外小胞の放出が阻害される、です。

神経伝達物質は細胞外小胞に含まれシナプス前終末から放出されます。この神経伝達物質は脳内で情報の伝達、学習、記憶などに直接関わる重要な物質であり、これが減ることは認知症の発症に関わります。また、注目すべきは、この変化はMSAにとどまらずDLBにおいても見られ、異常αシヌクレインが蓄積する疾患に共通するメカニズムであることがわかりました。これらの所見は、DLBやMSAにおける認知症の治療において治療標的 はαシヌクレインオリゴマーであることを意味するものです。なお、私達はトレハロースやエルゴチオネインといった物質がMSAモデルマウスにおける認知症の改善に有効であることを確認しており(Tanaka et al. Brain Commun 2024; Kimura et al. Biochem Bioph ys Res Comm 2025)、αシヌクレインオリゴマーを標的とする認知症の治療戦略を進めています。

図説明文:MSAにおける認知症の成因。(a)健常者脳においてαシヌクレインはモノマー 形で存在し、シナプス前終末においてシナプトタグミン13やSNARE複合体とともに細 胞外小胞の放出に関わる。(b)しかし、MSA患者脳では、αシヌクレインモノマーはオ リゴマーに形を変え、複数のシナプトタグミン13を巻き込む。この結果、シナプスにおける細胞外小胞の放出が阻害され、細胞間のコミュニケーションが阻害される。

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取材に関するお問合せ先

弘前大学大学院医学研究科 脳神経病理学講座 助教 三木 康生
TEL・FAX:0172-39-5135・0172-39-5145
E-mail:mikiyasuhirosaki-u.ac.jp