弘前大学

白神山地の森が記録する地すべりの歴史:樹木年輪で約150年間を復元

2025.10.20

プレスリリース内容

発表のポイント

  • 白神山地の岩木川上流大川流域にあるサンスケ沢地すべり地でブナを含む12樹種の落葉広葉樹を対象として、160個体年輪サンプルを採取し、その樹齢判読と年輪幅解析を行った結果、約150年前までの地すべりの発生履歴を解明しました。
  • 本研究では、地すべり発生履歴の解析に用いられる例が少なかった落葉広葉樹を供試木として、年輪に見られる成長撹乱の評価と、地すべりによって林冠が空いて生じたギャップへの陽樹の侵入時期解析を組み合わせることにより、複数の指標を活用した新たな地すべり活動評価手法を提案しました。
  • 約150年間にわたる活動史の解析の結果、調査地では少なくとも3〜4回の地すべり再活動イベントが特定され、これらの時期は滑落崖の後退、末端部の移動、および地すべり域全体の再活発化といった地形変化と対応していることが明らかになりました。

発表概要

地すべり地に生育する樹木は、斜面の変動によって幹の傾斜や成長撹乱を生じます。この情報を年輪から読み取ることで、過去にいつ地すべりが発生したかを推定する「樹木年輪地形学(デンドロジオモルフォロジー)」が発展してきました。しかし、従来の手法では、樹種や環境による反応差が十分に考慮されず、複雑な地形・植生環境下での解析精度に課題がありました。

岩手大学大学院連合農学研究科(弘前大学配属)の大学院生川上 礼央奈さんは、鄒 青穎准教授(弘前大学農学生命科学部)、石川 幸男名誉教授(弘前大学農学生命科学部)とともに、白神山地におけるサンスケ沢地すべり地を対象に、年輪に見られる地すべりの影響による生長撹乱の評価に加えて、陽樹の侵入時期解析を組み合わせる新たな手法を提案し、過去約150年間の地すべり活動史を復元しました。この手法は、従来の手法に比べて、異なる樹種や環境条件による応答の違いを考慮できる点が特徴であり、地すべり履歴の空間的・時間的変遷を把握することが可能となりました。この研究成果は、日本時間2025年10月13日に、「Landslides」誌に掲載されました。

サンスケ沢地すべり地は、白神山地の青森県側、中津軽郡西目屋村の大川左岸に位置します。地すべり移動体は、その後の二次的な活動により形成された複数の地すべり地形によって、4つの地すべりブロック(以下Landslide 1–4)に分割されています。私たちの研究グループは、これらの地すべりブロックにおいて、地すべりの影響で幹の傾斜を示す樹木と、地すべりによって生じたギャップにいち早く侵入・定着する陽樹を供試木として選定しました。ブナを含む12樹種の落葉広葉樹(うち2種は陽樹)を対象に、成長錐を用いて160個体から太さ5㎜の年輪サンプルを採取し、樹齢判読と年輪幅解析を行いました。その結果、約150年間にわたる活動史の中で、各地すべりブロックはいずれも少なくとも3~4回の再活動イベントを経験していることが明らかになりました。

  • Landslide 1では、1901~1905年および1948~1969年に地すべり体内部での再活動が確認され、特に1956~1960年にはより広範な活動が推定されました。
  • Landslide 2では、1911~1915年および1956~1960年に側方滑落崖での後退的拡大がみられ、1963~1966年には末端部での再活動、さらに1951~1955年にはより大規模な再滑動が生じたと考えられます。
  • Landslide 3では、1935~1948年に大規模なすべりが発生し、その後1956~1960年、1961~1965年、1996~2000年にかけて滑落崖の拡大が進行しました。
  • Landslide 4では、1966~1970年に末端部の移動、1983~1994年に滑落崖の拡大、1986~1990年には地すべり全体が広範に再活動したことが示唆されました。

これらの結果は、年輪データなど地すべりの影響を示す樹木指標に基づいて地すべり活動の実態を復元したものであり、地すべり再活動の時期や規模の推移を把握するうえで、森林環境の保全や防災計画に有益な情報となります。さらに、本研究の成果は、世界自然遺産・白神山地における山地発達過程の理解を深めるうえでも重要な意義を持ちます。

論文情報

【雑誌名】Landslides
【論文題目】Reconstruction of landslide chronology through shade-intolerant tree establishment and an event-response index: a case study of the Sansukezawa landslide, Japan
【著者】Kawakami, Reona,Tsou, Ching-Ying*, Ishikawa, Yukio
【DOI】10.1007/s10346-025-02631-7
【URL】https://rdcu.be/eKRFH

詳細

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お問合せ先

弘前大学農学生命科学部 准教授 鄒 青穎(ツォウ チンイン)
Tel:0172-39-3842
E-mail:tsou.chingyinghirosaki-u.ac.jp