弘前大学

青森県で植物ごとに異なる24種のグンバイムシを確認~23種が世界自然遺産の白神山地に生息~

2026.01.19

プレスリリース内容

本件のポイント

  • 青森県で24種のグンバイムシ(植物を摂食するカメムシの一群)を確認しました。
  • 24種のうち23種が世界自然遺産の白神山地にも生息しています。
  • 青森県は10種のグンバイムシで分布の辺縁部かもしれません。
  • 今回の発見は青森県ならびに白神山地に分布する植食性昆虫の特徴を議論するための基礎的な知見となります。
  • この成果は2025(令和7)年12月26日に日本半翅類学会の雑誌「Rostria」に掲載されました。

研究背景

青森県は本州の北端に位置し、様々な生物で分布の辺縁部となっています。植物の分布では174種の北限ならびに21種の南限として知られています。単食者の植食性昆虫(特定の植物種しか摂食しない昆虫)は分布域を寄主植物(餌となる植物)に制約されます。つまり、本県は植物のみならず植食性昆虫の分布でも重要な地域と考えられます。グンバイムシ(植物を摂食するカメムシの一群)は大半の種で寄主特異性が高く(単食者が多い)、本県に分布する植食性昆虫の特徴を議論することに適した材料です。

青森県のグンバイムシは1941年に「青森縣博物總目録 第二巻」で4種(エグリグンバイ、ツツジグンバイ、トサカグンバイ、ヨモギグンバイ)が記録されたことに研究の歴史が始まりました。その後、多くの研究者と愛好家により種数が増加し、現在までに23種が知られています。しかし、既知種のうち大半で現在の生息状況が不明で、一部の種で同定に疑問がありました。

一方、白神山地は青森県の南西部と秋田県の北西部にまたがる山塊で、世界自然遺産に登録されています。白神山地では青森県側でのみグンバイムシが記録されています。よって、青森県側での調査が文献記録の再検討に必要不可欠です。青森県に加えて白神山地に分布する植食性昆虫の特徴を議論するためにも、グンバイムシの基礎的な調査が求められていました。

研究内容

相馬 純助教(弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センター)は青森県に分布するグンバイムシを調査し、各種の寄主植物を特定しました。加えて、研究機関に収蔵または協力者から提供された標本を同定し、文献記録のうち一部を再検討しました。結果として、本県から24種のグンバイムシを確認しました(図1,2)。青森県産種はコケから木本まで多様な植物に寄生する分類群で構成されていました(図3,4)。

図1

図1:青森県産グンバイムシ科12種.A,ウチワグンバイ;B,マルグンバイ;C,エゾナガグンバイ;D,エグリグンバイ;E,ヒゲブトグンバイ;F,プラタナスグンバイ;G,アワダチソウグンバイ(成虫);H,アワダチソウグンバイ(5齢若虫);I,フジグンバイ;J,キクグンバイ;K,ルイスグンバイ;L,ヤナギグンバイ;M,マツムラグンバイ.相馬(2025)より転載.

図2

図2:青森県産グンバイムシ科12種.A,コアカソグンバイ;B,シッコクグンバイ;C,チャイログンバイ;D,ハッコウダグンバイ;E,ナシグンバイ;F,ツツジグンバイ;G,クスグンバイ;H,トサカグンバイ;I,ヨモギグンバイ;J,エゾヨモギグンバイ;K,ヒメグンバイ;L,クルミグンバイ.相馬(2025)より転載.

図3

図3:青森県産グンバイムシ科11種の寄主植物(括弧内は対応する種の和名).A,シノブゴケ属の一種(マルグンバイ);B,スゲ属の一種(エゾナガグンバイ);C,フキ(エグリグンバイ);D,シソ科の一種(ヒゲブトグンバイ);E,スズカケノキ属の一種(プラタナスグンバイ);F,ヨモギ属の一種(アワダチソウグンバイ);G,セイタカアワダチソウ(アワダチソウグンバイ);H,ヨモギ属の一種(キクグンバイ);I,イヌタデ属の一種(ルイスグンバイ);J,ヤナギ属の一種(ヤナギグンバイ);K,アカソ(コアカソグンバイ);L,ケンポナシ(シッコクグンバイ).相馬(2025)より転載.

図4

図4:青森県産グンバイムシ科10種の寄主植物(括弧内は対応する種の和名).A,ウワミズザクラ(チャイログンバイ);B,ハクサンシャクナゲ(ハッコウダグンバイ);C,ボケ(ナシグンバイ);D,ツツジ属の一種(ツツジグンバイ);E,タブノキ(クスグンバイ);F,アブラチャン(トサカグンバイ);G,オオバクロモジ(トサカグンバイ);H,アセビ(トサカグンバイ);I,ヨモギ属の一種(ヨモギグンバイ);J,ヨモギ属の一種(エゾヨモギグンバイ);K,コナラ(ヒメグンバイ);L,オニグルミ(クルミグンバイ).相馬 (2025)より転載.

24種のうち、マツムラグンバイとフジグンバイは本県初記録で、残り22種は本県既記録でした。他方で、フジグンバイは過去にミヤマグンバイ(国内では北海道と本州中部にのみ確実に分布)として本県から記録されていました。したがって、本県から24種のグンバイムシが知られることになります。さらに、フジグンバイは本州の複数県でミヤマグンバイと誤同定されていたことが文献記録の再検討で判明しました。誤同定を防ぐため、日本産ミヤマグンバイ属の検索表(同定の手引き)を作成しました。

青森県産グンバイムシ24種のうち、ハッコウダグンバイをのぞく23種が白神山地の青森県側(世界自然遺産に登録されていない低地帯を含む)に生息していました。相馬が研究を開始する前に白神山地から記録されていた10種もすべて再確認されました。また、青森県は4種(シッコクグンバイ、クスグンバイ、トサカグンバイ、マツムラグンバイ)で最も北の産地、6種(ウチワグンバイ、キクグンバイ、ヤナギグンバイ、ナシグンバイ、ヨモギグンバイ、クルミグンバイ)で国内の最も北の産地でした。すなわち、10種のグンバイムシが本県を分布の辺縁部とするかもしれません。10種のうち、クスグンバイはクスノキ科の常緑木本にのみ寄生します。青森県以北に分布するクスノキ科の常緑木本は深浦町のタブノキのみです。クスグンバイはタブノキと同様に深浦町が分布の北限と考えられます。しかし、残り9種は寄主植物が自生する北海道とその属島に分布する可能性があります。北海道のグンバイムシは包括的な記録があるものの、本県に近い道南地域で調査が不足しています。よって、道南地域で寄主植物の自生地を調査することで、グンバイムシの分布の辺縁部としての本県の重要性を正確に評価できることが見込まれます。

意義と展望

寄主特異性が高い植食性昆虫の分布情報は、各地域で昆虫相の特徴を議論するために必要不可欠です。本研究は青森県ならびに白神山地に生息するグンバイムシを調査し、各種の産地と寄主植物を確認しました。採集記録と文献記録を目録にまとめたことで、両地域における昆虫相の概観に資する基礎的な知見を提供しました。寄主植物の分布から本県での発見が予想されるグンバイムシが複数いるので、さらなる未記録種の探索も求められています。

一方、青森県産グンバイムシには解決すべき分類学的問題が複数あります。本研究から除外しましたが、正体不明のグンバイムシが得られています。トサカグンバイは青森県と他地域の個体群の間に形態的差異が指摘されています。ヨモギグンバイとエゾヨモギグンバイは形態的差異が連続的です。さらなる未記録種の探索だけでなく分類学的研究も進展させることは、本県のグンバイムシ相のより正確な理解に繋がります。

インターネット上で多くの雑誌のバックナンバーが閲覧できるようになった現在でも、紙媒体しかない文献は少なくありません。紙媒体しかない文献は各地域の古い雑誌が多く、規模の大きい図書館に必ずしも所蔵されていません。本研究の遂行にあたり、白神自然環境研究センターならびに弘前大学附属図書館で青森県の昆虫に関連する多数の文献を閲覧しました。その結果、本県のカメムシ(グンバイムシ)にのみ言及した文献を既に揃えていたことと、他の昆虫とまとめてカメムシを記録した文献の一部を把握できていなかったことに気づきました。各地域の古い雑誌は多くがインターネット上で公開される見込みに乏しいので、今後も紙媒体の収集が必要と思われます。

論文情報

■ タイトル:青森県産グンバイムシ科目録ならびに日本産ミヤマグンバイ属の検索表
■ 著者:相馬 純
■ 掲載誌:Rostria
■ DOI:なし

詳細

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お問合せ先

弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センター
助教 相馬 純
TEL:0172-39-3708(メールでお問い合わせください)
E-mail:jun.soumahirosaki-u.ac.jp