東アジア・北西太平洋域で初―白亜紀末の小惑星衝突を示す「K/Pg境界層」の一部を北海道で発見
2026.05.20
研究
プレスリリース内容
発表のポイント
- 北海道東部において、「白亜紀末の大量絶滅」を引き起こした小惑星衝突の影響を示す地層(K/Pg境界層注1)の一部を新たに発見しました。
- 本発見は、東アジア・太平洋北西海域では初めて、地球化学的証拠によりK/Pg境界層を確認した成果です。
- 本地域の地層は東アジア・北西太平洋域という、小惑星衝突地点から最も遠い地域における、白亜紀末~古第三紀初頭の環境変動や生態系崩壊とその後の回復過程の実態解明に向けた重要な手がかりとなります。
概要
約6,600万年前の白亜紀末、メキシコ・ユカタン半島近傍に小惑星が衝突し、巨大津波、広域におよぶ森林火災、急激な寒冷化が発生し、多くの生物が絶滅しました。この時代の境界は「白亜紀/古第三紀境界(K/Pg境界)」と呼ばれています。東アジア・北西太平洋域は、衝突地点から最も遠い地域の一つであり、地球規模で起こった環境変動の影響を検証するうえで極めて重要な地域です。
東北大学・東京大学らの研究グループは、従来K/Pg境界層とされてきた北海道浦幌町茂川流布(もかわるっぷ)川セクションの露頭はK/Pg境界層ではなく、北東約4kmに位置する川流布(かわるっぷ)川支流上流の泥岩層における地層が、K/Pg境界層の一部であることをオスミウム同位体注2比分析、微化石分析、火山灰の放射年代測定、古地磁気分析の結果から示しました。本地層により100年単位という高い解像度で堆積当時の環境変動を解析できる可能性があり、本成果は北西太平洋や東アジア地域における白亜紀末の環境や生態系の変化を解明するための重要な基盤となることが期待されます。
本成果は2026(令和8)年5月19日18時(日本時間)、科学誌Communications Earth & Environmentに掲載されました。
研究の詳細
研究の背景
白亜紀末には、小惑星がメキシコ・ユカタン半島北部に衝突しました(図1)。この衝突によって大規模なクレーター(チクシュルーブクレーター)ができ、同時に巨大津波が発生し、津波は世界中の海洋を伝搬しました。さらに大規模な森林火災が生じ、大量の粉塵等が成層圏にまで到達して太陽光を遮断した結果、急激な寒冷化が引き起こされました。この急激な気候変動により、恐竜やアンモナイトをはじめとする中生代に繁栄した多くの陸上・海洋生物が絶滅しました。
イリジウムやオスミウムといった白金族元素は、地球表層(大陸地殻)ではごく微量しか存在しないのに対し、小惑星では相対的に豊富に含まれます。白亜紀末の小惑星衝突に伴い、白金族元素が地球全体に広く行き渡りました。オスミウムも白金族元素の一つであり、複数の同位体をもつ元素です。放射性起源核種の187Osと安定核種の188Osとの比(187Os/188Os)は、大陸地殻で高い一方、小惑星や隕石、さらにはマントルなど地下深部では低い値を取ります。そのため、小惑星衝突や大規模な玄武岩質火成活動が起こると、地球表層には187Os/188Os比の低いオスミウムが大量に供給され、堆積物中の187Os/188Os比は大きく低下します。この性質から、イリジウム濃集やオスミウム同位体比の急変は、白亜紀/古第三紀境界(K/Pg境界)を認定する最も重要な指標として用いられてきました。
K/Pg境界層は世界各地で報告されていますが、海成層では衝突に伴う津波による海底侵食のため、連続した記録が残されている例は多くありません(図2)。また、陸上は恒常的に侵食の場であることに加え、衝突地点近傍では強い衝撃や津波によって粗粒な堆積物が形成されるため、やはり連続した地層記録を得ることは困難です。
東アジアおよび北西太平洋地域では、これまで1986年に北海道浦幌町の茂川流布(もかわるっぷ)川沿いに露出する根室層群から報告された粘土層が、唯一のK/Pg境界層とされてきました(図2)。しかし、この境界層は上下の地層から産出した浮遊性有孔虫化石に基づいて推定されたものであり、境界層自体のイリジウム含有量やオスミウム同位体比は検討されていませんでした。さらに、岩相や周辺の地質構造から、この露頭が断層破砕帯である可能性も指摘されていました。
東アジア・北西太平洋域は、白亜紀末の衝突現場から最も遠く離れた地域の一つであり(図1)、小惑星衝突がもたらした気候変動や海洋環境、生態系への全地球規模の影響を検証するうえで極めて重要です。根室層群は、白亜紀から古第三紀前期にかけて、アジア大陸北東縁に面した北西太平洋の半深海底で堆積した地層であり(図1)、海洋環境だけでなく、陸域から供給された細粒砕屑物(粘土成分、植物化石の破片や花粉化石)を通じて陸上環境の情報も記録しています。
今回の取り組み
本研究では、東北大学を中心とした東京大学、福井県立大学、北海道大学、愛知教育大学などからなる合同研究チームが2013年から10年以上にわたり、根室層群におけるK/Pg境界層の探索を進めてきました。その結果、従来K/Pg境界層とされてきた茂川流布(もかわるっぷ)川セクションでは、イリジウム濃集やオスミウム同位体比の変動が認められず、露頭自体が大規模な断層の破砕帯であることを明らかにしました。
一方で、本研究グループは茂川流布(もかわるっぷ)川セクションの北東約4kmに位置する川流布(かわるっぷ)川支流上流の泥岩層から、イリジウム含有量の軽微な増加とオスミウム同位体比および含有量の顕著な変動を示す地層を新たに発見しました。さらにこの地層に対して、微化石の検討、古地磁気方位の解析、火山灰の放射年代測定も行い、K/Pg境界層とほぼ一致することを確認しました。
ただし、この地層には層理面に沿った幅1cm未満の小規模な断層が認められ、イリジウム濃集やオスミウム同位体比の変動幅が世界各地のK/Pg境界層より小さいことから、境界直後の一部が欠如している可能性が示唆されます。他地域との比較から、この断層によって衝突直後約3万年間の記録が失われている可能性がありますが、それでも小惑星衝突の化学的痕跡は明瞭に保存されています。本研究成果は、東アジアおよび北西太平洋域において、K/Pg境界層の一部を初めて実証的に確認した重要な成果といえます。また、この地層の堆積速度(20〜70cm/千年)はK/Pg層が保存されている他の海洋の地層(数mm〜数cm/千年)よりはるかに高いため、100年単位という高い解像度で当時の環境変動を解析できる可能性があります。
今後の展開
周辺地域のさらなる調査により、より連続性の高いK/Pg境界層が発見される可能性があります。
今回発見された地層の上下において、微化石解析や有機・無機元素分析を進めることで、東アジア・北西太平洋域における白亜紀末の陸上気候、海洋環境、陸上・海洋生態系への影響をより詳細に復元できると期待されます。
用語解説
- 注1 K/Pg境界層:恐竜の繫栄していた白亜紀と、恐竜絶滅後の古第三紀の境界時に堆積した地層で、イリジウムなどの地球外惑星由来物質を豊富に含むことで特徴づけられます。
- 注2 同位体:同位体とは、同一の元素(同じ原子番号)でありながら中性子数が異なる核種のことを指します。特定の元素においては、放射性同位体が時間経過とともに別の娘核種に壊変します(放射壊変)。このようにして生じた放射性起源の核種が、安定した核種に対してどの程度の割合で含まれているかを調べることで、その物質の起源や年代を知ることができます。オスミウム(Os)には天然で7つの同位体が存在します。このうち187Osは、レニウム187Reの放射壊変によってできる娘核種です。放射性起源同位体の187Osと、安定同位体188Osとの存在量の比(同位体比)を使って、オスミウムを含む物質の起源を推定することができます。
論文情報
■ 著者名:Hayu Ota, Junichiro Kuroda, Keiichi Hayashi, Hiroyuki Hoshi, Ken Sawada, Kohei Hosogaya, Hiroshi Nishi, Akira Ishikawa, Katsuhiko Suzuki, Masashi A. Ikeda, Yuji Orihashi, Mark Schmitz, Babu Ram Gyawali, Hironao Matsumoto and Reishi Takashima
太田映・黒田潤一郎(東京大学),林圭一・西弘嗣(福井県立大学),星博幸(愛知教育大学),沢田健・池田雅志(北海道大学),石川晃(東京科学大学),鈴木勝彦(JAMSTEC),折橋裕二(弘前大学),Babu Ram Gyawali(トリブバン大学),Mark Schmitz(ボイシー州立大学),松本廣直(筑波大学),細萱航平・髙嶋礼詩(東北大学)
*責任著者 東京大学大気海洋研究所 太田 映(おおた はゆ),東京大学大気海洋研究所 黒田 潤一郎(くろだ じゅんいちろう)
■ 掲載誌:Communications Earth&Environments
■ DOI:10.1038/s43247-026-03602-z
詳細
プレスリリース全文は こちら(7MB)
お問合せ先
弘前大学理工・農生事務部 総務グループ庶務担当
TEL:0172-39-3510
E-mail:r_kohohirosaki-u.ac.jp






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