糖質を使用せずに基幹芳香族化合物を生産する新たな技術開発に成功 ―非糖質原料からの「4-ヒドロキシ安息香酸」のバイオ合成法を創出―
2026.09.01
研究
プレスリリース内容
本件のポイント
- 弘前大学の園木 和典 教授、樋口 雄大 助教らの研究グループは、長岡技術科学大学の政井 英司 教授、上村 直史 准教授、藤田 雅也 助教らの研究グループ、東レ株式会社と連携して、新たな4-ヒドロキシ安息香酸のバイオ合成法を創出しました。
- これまで主に石油由来の原料から製造されていた基幹芳香族化合物の一種である4-ヒドロキシ安息香酸を、糖質を含まないバイオマス原料から製造することに成功しました。4-ヒドロキシ安息香酸は、高機能性プラスチックやファインケミカルの合成原料として利用されています。
- 将来的に需要が高まり競合することが予想される糖質を使用しない利点は、安定的な供給、原料コスト面における経済性等を見込め、次世代型バイオものづくりとして期待されます。
本件の概要
4-ヒドロキシ安息香酸は、高性能液晶ポリマーやパラベン類に属する抗菌剤をはじめ、数多くの高機能性プラスチックやファインケミカルの合成原料として広く利用されている基幹芳香族化合物です。4-ヒドロキシ安息香酸は従来、高エネルギーを要するプロセスによって石油由来の原料から製造されています。このような基幹化合物の製造を化石資源から切り離し、カーボンニュートラルを達成するための一つのアプローチとして、再生可能なバイオマスを活用した製造技術の開発は益々注目を集めています。
農業残渣など草本系バイオマスから非可食糖を製造する過程では、芳香族化合物であるリグニンやヒドロキシ桂皮酸類が取り除かれますが、これらは化学構造や分子量分布が不均一であるため、工業原料としての活用は困難でした。本研究では、多様な芳香族化合物を利用して増殖する能力に長けた微生物の代謝を改変し、サトウキビの搾り粕をアルカリ処理して排出される芳香族化合物の混合物を利用して増殖しながら4-ヒドロキシ安息香酸を高収率で生産できる微生物、およびそれを用いた4-ヒドロキシ安息香酸の製造方法を開発しました。従来の糖質を利用した4-ヒドロキシ安息香酸のバイオ合成とは異なり、本手法は糖質を一切使用しない「糖質フリー」なバイオ合成を実現します。
本研究成果は、2026(令和8)年8月22日に国際科学誌「Bioresource Technology」のオンライン版で公開されました。
https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S0960852426017712#ab010
本研究は、国立大学法人弘前大学次世代重点研究の支援を受けて実施されました。再生可能なバイオマスから基幹化合物を生産する技術開発に貢献できる研究成果を世界に発信し、地域とともに脱炭素社会の実現に貢献してまいります。
研究の背景
4-ヒドロキシ安息香酸は高性能液晶ポリマーやパラベン系抗菌剤など数多くの製品の合成原料となる基幹芳香族化合物ですが、従来は石油を原料に高エネルギーを要するプロセス(Kolbe-Schmitt法)で製造されてきました。近年、グルコースなどの糖を炭素源として微生物に4-ヒドロキシ安息香酸を生産させる研究が世界的に進められていますが、糖資源は食料や他のバイオ合成原料と用途が競合するという課題があります。一方、非可食バイオマスから糖を製造する過程では、リグニンやヒドロキシ桂皮酸類などの芳香族成分が副生しますが、化学構造や分子量が不均一なため工業原料としての活用が難しく、有効利用が求められていました。
研究の内容
本研究では、多様な芳香族化合物を代謝できる細菌Pseudomonas sp.NGC7を用いて、サトウキビバガスをアルカリ処理して得られる芳香族化合物の混合物 (糖質を含まない)を炭素源として、4-ヒドロキシ安息香酸を生産する微生物触媒を開発しました。4-ヒドロキシ安息香酸分解酵素遺伝子(pobA)の破壊に加えて、4-ヒドロキシ桂皮酸類の分解遺伝子群の転写抑制因子遺伝子(ferR)を破壊することで代謝のボトルネックを解消し、芳香族化合物の混合物を利用して増殖しながら4-ヒドロキシ安息香酸を生産できる微生物株を構築しました。培養条件(温度・pH・溶存酸素濃度)を最適化した結果、糖を一切使用せずに90 mol%以上の収率で、6g/L以上の4-ヒドロキシ安息香酸を生産することに成功しました。
今後の展開
本研究の成果は、非可食糖の製造工程で副生する芳香族成分を有効活用し、食料や他用途と競合しない次世代型バイオものづくりの可能性を示すものです。今後は、多様な前処理法に由来する芳香族化合物原料への適用や、より広範な芳香族化合物を利用できる株の分子育種など、実用化に向けた技術開発を進めていきます。
用語解説
- (1)4-ヒドロキシ安息香酸:化粧品や医薬品の防腐剤として広く使用されているパラベン類や、高機能性プラスチック (液晶ポリマーやエポキシ樹脂など)、染料、農薬、医薬中間体の合成原料として広く使用されている基幹芳香族化合物の1つ (2024年の市場規模は8億USドル)。
- (2)基幹化合物・基幹芳香族化合物:多くの化合物の合成原料となる出発物質。基幹化合物・基幹芳香族化合物から様々な化学反応を経て、多様な有用物質が製造される。石油由来の基幹化合物として、エチレン、プロピレン、ベンゼン、トルエン、キシレンなどがある。
- (3)非糖質原料:ブドウ糖、ショ糖、デンプン、セルロース、ヘミセルロースなどの糖質を含まない植物由来の有機物。
- (4)リグニン:セルロースやヘミセルロースとともに、樹木や草本植物など非可食バイオマスを構成する主要成分である芳香族高分子。基幹芳香族化合物や芳香族素材製造の原料として注目されている。
詳細
プレスリリース全文は こちら(926KB)
お問合せ先
【研究内容に関するお問い合わせ先】
弘前大学農学生命科学部
教授 園木 和典
TEL:0172-39-3585
E-mail:sonokihirosaki-u.ac.jp
長岡技術科学大学 技学研究院 物質生物系
教授 政井 英司
TEL:0528-47-9428
E-mail:emasaivos.nagaokaut.ac.jp
【共同研究や産学連携活動、上記以外に関するお問い合わせ先】
弘前大学 研究・イノベーション推進機構
URA 渡部 雄太
TEL:03-3519-5060
FAX:03-3519-5061
E-mail:urahirosaki-u.ac.jp


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