ウナギの川のぼりは簡単ではない ― 魚道模型の実験で通過条件を検証 水位差15cmで通過できず ―
2026.09.30
研究
プレスリリース内容
本件のポイント
川をのぼる魚のために、堰(せき)などに設けられる「魚道(ぎょどう)」。しかし、魚のための通り道でも、小さなウナギには通り抜けにくい場合があります。
弘前大学農学生命科学部の矢田谷 健一 助教、東 信行 教授、丸居 篤 教授、廻立 出海さん、伊藤 和磨さん(いずれも研究当時、同学部学生)の研究グループは、階段状の魚道を再現した水路で、全長約15cmのニホンウナギがのぼれる落差を調べました。上下流の水面の高さの差が5cmのとき、通過成功率は74~86%でした。一方、15cmでは、37回の挑戦で一度も通過できませんでした。
今回の結果は、小さなウナギが通りやすい魚道をつくるには、一段ごとの水位差や水の流れ方に配慮することが大切であることを示しています。この研究成果は、2026(令和8)年9月22日に、国際学術誌「Journal of Ecohydraulics」に掲載されました。
本件の概要
1. 魚道とは?
魚道は、川の堰(せき)などの人工落差に設ける「魚のための通り道」です。堰による大きな段差を小さな段差に分けたり、スロープ状にしたりして、魚が少しずつ上流へ進めるようにします。国内では、写真1のような階段式魚道(越流式魚道)と呼ばれるタイプが広く普及しています。
2. 研究の背景
ニホンウナギは海で生まれ、川や湖などで成長します。川を横切る堰などで移動を妨げられると、上流にある生息場所を利用しにくくなります。絶滅が危惧されるニホンウナギを守るためには、小さなウナギも移動できる川づくりが大切です。
その移動を助けるために設けられるのが魚道です。しかし、魚道があっても、体の小さなウナギが通れるとは限りません。どの程度の水位差や、どのような流れが障害になるのかを、実際の行動とあわせて調べる必要がありました。
3. 実験で調べたこと
研究グループは、階段式魚道の一部を実物大相当で実験水路に再現しました(写真2)。使用したのは、全長が平均約15cmのニホンウナギ49尾です。プールを区切る壁の上端に45°の斜面を設け、隣り合うプールの水面の高さの差(写真3のΔh)を5cm、10cm、15cmに変えて、上流へ通過できるかを調べました。
さらに、壁の上を流れる水の深さ(写真3のh1)は15cmと20cmの2条件とし、合計6条件を比較しました。ビデオカメラでウナギの動きを記録し、流速計で水の速さと向きを測定しました。
4. 結果
①水位差15cmでは通過できなかった
水位差5cmでの通過成功率(※通過に挑戦した回数に対する成功回数の割合)は74~86%、10cmでは25~70%でした。15cmでは、37回の挑戦で一度も通過できませんでした。水位差が大きい条件ほど、ウナギが上流へ進みにくくなる結果でした。一方、国内の魚道は、一段ごとの水位差が15cm以上のものも少なくありません。今回の結果は、こうした魚道において、形状や流れの条件によっては、小さなウナギの遡上が妨げられる可能性を示しています。
②流れが急に変わる場所で押し戻された
通過に失敗した81回のうち68回(84%)では、壁の傾きが変わる2か所(図1のA点、B点)のいずれかから5cm以内で、魚が押し戻され始めていました。その周辺の流速は毎秒約1.1~1.7m(10秒間の平均)で、流れの速さや向きも局所的に大きく変化していました。速い流れに加え、こうした急な変化が通過をさらに難しくした可能性があります。
③ウナギは壁の近くを通った
ウナギは、壁を越える流れに近づくとき、水路の側壁やプールを区切る壁の表面近くを通る傾向がありました。壁の近くには比較的流れの遅い場所ができやすいため、こうした通り道を途中で途切れさせない工夫が、通過を助けると考えられます。
5. 小さなウナギがのぼりやすい魚道の設計に向けて
今回の結果は、全長おおむね20cm以下の小さなウナギを対象に、プールを区切る壁の上端に45°の斜面を持つ魚道を設計・改修する際、一段ごとの水位差を15cm未満に抑えることが目安になると示しています。あわせて、壁の近くに流れの緩やかな通り道を確保し、流れが急に変わる場所を減らすことも効果的であると考えられます。ただし、15cm未満ならば必ず通過できるという意味ではありません。また、壁の形やウナギの大きさが違えば、通過できる条件も変わる可能性があります。
今後は、壁の形やウナギの大きさを変えた実験と、実際の魚道での観察を進め、小さなウナギを含む、多様な水生生物が通りやすい魚道の設計に貢献したいと考えています。
報道にあたっての留意点
「水位差15cmでは通過できなかった」という結果は、今回の魚の大きさと壁の形などの実験条件に限られます。すべての魚道に共通する限界値を示したものではありません。
論文情報
■ 著者:Kenichi Yataya, Izumi Mawatachi, Kazuma Ito, Atsushi Marui, Nobuyuki Azuma(矢田谷 健一,廻立 出海,伊藤 和磨,丸居 篤,東 信行)
■ 掲載誌:Journal of Ecohydraulics
■ DOI:10.1080/24705357.2026.2735873
詳細
プレスリリース全文は こちら(1.1MB)
お問合せ先
弘前大学 農学生命科学部地域環境工学科
助教 矢田谷 健一(やたや けんいち)
TEL:0172-39-3843
E-mail:yatayahirosaki-u.ac.jp
※メールでお問い合わせいただけましたら、内容説明につきましてはZoom等でも対応いたします。






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