弘前大学

【プレスリリース】燃料電池車の本格普及に資する触媒技術 ~安価かつグラム単位での高耐久導電性酸化物合成と高性能燃料電池電極の開発に成功~(理工学研究科)

2021.11.22

概要

弘前大学大学院理工学研究科の千坂 光陽 准教授と岩手大学理工学部化学・生命理工学科の竹口 竜弥 教授らの研究グループは、安価かつグラム単位で導電性酸化物Ti4O7を合成する技術と、Ti4O7を用いた高性能燃料電池電極を開発することに成功しました。空気中で利用できる安価な原料を用いて、一度に2gを超える量のTi4O7を合成しました。これに白金ナノ粒子を担持させた電極触媒は、自動車の加速・減速を一万回繰り返す劣化試験後も高い性能を維持しました。2050年にカーボンニュートラルを達成するグリーン戦略の基礎となる、水素社会の実現に、この技術が大きく貢献することが期待されます。本研究成果は2021年11月10日に英国王立化学会が発行する学術誌「Chemical Communications」のオンライン速報版で公開されました。また同誌のOutside Back Coverを飾ることも決定しています。

背景

固体高分子形燃料電池(Polymer Electrolyte Fuel Cell, PEFC)は、空気中の酸素と水素を利用して発電し、水しか生成しないクリーンな次世代自動車用動力源として期待されてきました。2014年12月からはセダンタイプの乗用車にも搭載され、一般に販売されてきました。その正極では酸素を還元する反応を、負極では水素を酸化する反応を促進するため、白金系ナノ粒子をカーボンブラックに付着(担持)した触媒が利用されています。カーボンブラック(※1)は自動車の起動停止時に酸化して使えなくなるため、現在は高価なシステムで電圧を制御してカーボンブラックを酸化から守っています。電圧を制御せずにPEFC を動作させることができる触媒材料として、弘前大学の千坂 光陽 准教授と岩手大学 竹口 竜弥 教授のグループは、導電性酸化物Ti4O7を開発しました。一度にTi4O7をグラム単位で安価に合成し、これに白金ナノ粒子を担持した触媒を利用して高い性能と耐久性を兼ね備えた燃料電池電極が得られました。Ti4O7は室温でグラファイト(※2)に匹敵する高い導電率を示す高耐久な電極材料として、PEFC、亜鉛―空気電池、リチウム―硫黄電池、リチウム―空気電池等で幅広く検討されてきました。地殻に存在する酸化チタンTiO2に比べ還元されている Ti4O7を合成するには、通常 1000℃を超える高温で長時間加熱する必要があり、加熱中に凝集して触媒である白金を担持する面積が低くなることが課題でした。
(※1) カーボンブラック:炭素を主成分とする微粒子。天然ガスや石油、クレオソート油等の炭化水素の熱分解と不完全燃焼の組み合わせにより得られる。
(※2) グラファイト:黒鉛。高い導電率を有し、リチウムイオン電池の負極にも利用されている。

研究内容・成果

本研究では炭素熱還元法(※3)を利用し、低温で100 m2/gを超える比表面積を有するTi4O7を合成しました。開発した合成方法では空気中で安定かつ安価なチタン源である硫酸チタニル(TiOSO4)を用い、高価な設備を利用せずに一度に最大 2g超のTi4O7が得られました。白金ナノ粒子をTi4O7に担持した触媒Pt/Ti4O7は、PEFCの負極としても、正極としても市販されている触媒と同等以上の性能が確認されました。正負両極で本触媒を利用して単電池を試作し、自動車の加速・減速サイクルを1万回繰り返しても一切発電性能が低下しない世界最高レベルの耐劣化性能が得られました(図1)。
(※3) 炭素熱還元法:高温で炭素を利用して物質を還元する方法。

今後の展開

開発した触媒は大量合成に適しかつ耐劣化性能が高いため、本格普及期におけるPEFC の運転コストを大幅に低減することが期待されます。
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【本プレスリリースに関するお問い合わせ】
弘前大学大学院理工学研究科 准教授 千坂 光陽
TEL:0172-39-3559 E-mail:chisaka@hirosaki-u.ac.jp