弘前大学

【プレスリリース】津軽のりんご園のハタネズミは 雪に守られ、冬に増える (農学生命科学部)

2022.02.04

本件のポイント
    • 弘前大学農学生命科学部の研究機関研究員ムラノ千恵さんと東信行教授、森林総合研究所 野生動物研究領域の飯島勇人主任研究員の研究グループは、農業者団体下湯口ふくろうの会の協力の下、りんご園のハタネズミの月別生息密度や生存率を調査しました。
    • 津軽地域のハタネズミは、積雪下で積極的に繁殖して春先に個体数を最大化させており、非積雪地の個体群とは全く異なる動態を持っていました。ハタネズミの仲間で、厳冬期の積極的に繁殖するのは世界的にも珍しく、北極圏に生息するレミングの仲間以外ほぼ報告がありません。
    • 本研究の成果が、2022年2月1日に国際誌 Population Ecologyに掲載されました。
研究の概要

近年ハタネズミによる果樹の食害が顕在化し、その被害防除対策が求められていますが、りんご園に生息するハタネズミの生態は、これまでほとんど調べられてきませんでした。研究グループは個体数の変動とその要因を理解することが被害防除の第一歩と考え、2017-19年に捕獲調査を行い、そのデータを解析して個体数変動や生存率の推定を行いました。
その結果、津軽地域のハタネズミは厳冬期分厚い積雪に守られながら積極的に繁殖し、春までに生息数を大幅に増加させるという、既存研究で知られていた非多雪地域の個体群とは全く異なる個体数動態を持つことが明らかになりました(図1)。 加えて、フクロウやホンドギツネといったりんご園を利用する野生動物が、雪解け後の豊富なハタネズミを餌として好んで利用することで、春以降のハタネズミの個体数が大きく減少することも示されました(図2)。

世界の冷温帯以北に生息するハタネズミの仲間で厳冬期に積極的に繁殖するのは、北極圏に生息するレミングの仲間以外では、ほぼ例がありません。
本研究によって、津軽地域の「多雪」という環境下にくらすハタネズミの独特な生態が明らかになり、さらにこの地域におけるハタネズミの個体数動態に影響を及ぼす要因が、具体的に示されたことになります。
研究グループでは、得られた知見をもとに、果樹園における被害防除手法の確立にむけた研究を進めたいと考えています。

【論文情報】
■タイトル:Unique population dynamics of Japanese field vole:Winter breeding and summer population decline.(積雪地域の果樹園におけるハタネズミ個体数の季節変動:冬季繁殖と夏季の個体数減少)
■著者:Chie Murano(ムラノ 千恵)、Hayato Iijima(飯島 勇人)、Nobuyuki Azuma(東 信行)
■掲載紙:Population Ecology (英文誌) DOI: 10.1002/1438-390X.12113

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