弘前大学

【プレスリリース】ソーシャルキャピタルが高い学校に通う子どもは 抑うつが低く、QoLが高い(医学研究科附属子どものこころの発達研究センター)

2022.01.26

本件のポイント
  • ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)とは、信頼やネットワーク、助け合いなどの要素で構成される概念であり、健康と関連していることが数多く報告されてきました。近年は、メンタルヘルスとの関連も報告されており、注目が集まっている概念です。
  • 本研究は、小学4年生から中学3年生の子ども8,184人(有効回答7,709人、有効回答率94.2%)を対象に、ソーシャルキャピタルと抑うつ、QoLの関連について2018年9月に調査しました。
  • 解析の結果、ソーシャルキャピタルが高いと認識している子どもは抑うつが低く、QoLが高いことを明らかにしました。また、子どもが所属している学校のソーシャルキャピタルが高い場合にも、その学校に所属する子どもの抑うつが低く、QoLが高いことを明らかにしました。
  • 本研究結果は、近年、自殺をはじめとした子どものメンタルヘルスの問題に対して、関心が高くなっている中で、子どもたちが通っている学校自体のソーシャルキャピタルを高めることが子どものメンタルヘルスの問題の予防につながる可能性を示唆したと言えます。
本件の概要

弘前大学の森裕幸特任助手(子どものこころの発達研究センター)、髙橋芳雄准教授・足立匡基准教授(保健学研究科 / 医学部心理支援科学科 / 子どものこころの発達研究センター)、新川広樹助教(弘前大学教育学部)、中村和彦教授(医学研究科 / 子どものこころの発達研究センター)は、カリフォルニア大学サンフランシスコ校の廣田智也先生(医学研究科神経精神医学講座客員研究員)らとの共同研究により、ソーシャルキャピタルが高いと認識している子どものメンタルヘルスが良好であるだけでなく、ソーシャルキャピタルが高い学校に在籍する子どものメンタルヘルスが良好であることを明らかにしました。

WHOによると、青少年の10~20%が精神障害や精神衛生上の問題を経験し、その半数は14歳までに発症していると言われています。子どものメンタルヘルスの問題は、生活の質(QoL)を低下させ、問題行動を悪化させ、学校への出席率を低下させます。日本では近年、不登校が増加し、2020年には若者(19歳以下)の自殺が過去最高となりました。抑うつは、不登校や自殺のリスク要因であると数多く報告されており、子どものメンタルヘルス問題に対する予防策を講じることは必要不可欠です。本研究は、小中学生の子どもを対象に、ソーシャルキャピタルと抑うつ、QoLとの関連を明らかにすることを目的として行われました。ソーシャルキャピタルとは、「人々の協調行動を活発にすることによって、社会の効率性を高めることのできる、『信頼』『規範』『ネットワーク』といった社会組織の特徴」と定義され、物的資本 (フィジカルキャピタル) や人的資本 (ヒューマンキャピタル) などと並ぶ新しい概念です。

2018年9月に小学4年生から中学3年生8,184人を対象に調査を行い、7,892人(回答率96.4%)から回答が得られました。このうち、回答に不備のない7,709人(有効回答率94.2%)を解析の対象としました。ソーシャルキャピタルは、「学校」(私はクラスメートに助けを求めることができる、私は学校の先生たちは思いやりがあり私たちをサポートしてくれる、など8項目)、「安全感」(私の家の近所の人たちは私をだまそうとしたり、利用したりするだろう、など2項目)、「地域」(私の家の近所の人たちは必要な時に助けてくれる、など2項目)といった3つの指標で測定し、それぞれの項目に対し、「3点:そうだ」、「2点:知らない・よくわからない」、「1点:そうでない」で回答を求めます。得点が高いほど子どもが認識しているソーシャルキャピタルが高いことを意味します。子どもたちが通っている学校のソーシャルキャピタルは、それぞれの学校に在籍する子どものソーシャルキャピタル得点の平均値を使用しました。

統計解析の結果、全てのソーシャルキャピタルの指標で、ソーシャルキャピタルが高い子どもは抑うつが低く、QoLが高いことが明らかになりました。ソーシャルキャピタルの指標の中でも「学校」の要因の関連が最も強いことが示され、子どものメンタルヘルスにとって、「安全感」や「地域」といった要因よりも「学校」に関連するソーシャルキャピタルが重要であることが示唆されました。また、子どもの所属する学校のソーシャルキャピタル(学校平均のソーシャルキャピタル)と抑うつ・QOLの関連では、抑うつにおいて、「学校」および「安全感」の要因で有意な関連が認められ、QoLでは「安全感」の要因のみ有意な関連が認められました。これは、先生やクラスメイトなどに対して助けを求めやすい雰囲気のある学校や安全感の高い学校に在籍している子どものメンタルヘルスの問題が少ないことを示しています。

さらには、小学校と中学校におけるソーシャルキャピタルと抑うつ、QoLの関連を調べたところ、学校の「安全感」と抑うつの関連は中学生よりも小学生の方が強いことが明らかになりました。これは、小学生は中学生よりも社会環境の影響をより受けやすいためだと考えられ、小学生は学校全体の安全感をより考慮した方がメンタルヘルスにとって良いことを示唆しています。

本研究結果は、個人及び学校が高いソーシャルキャピタルを持っていると、子どもたちのメンタルヘルスが良いことを示しました。これらのことから、子どもたちの一人一人の認識しているソーシャルキャピタルもそうですが、子どもたちが通う学校のソーシャルキ ャピタルを高めることが子どもたちのメンタルヘルスの問題を予防することにつながる可能性が考えられます。この成果は、令和4年1月14日にPLOS ONEに掲載されました。

【論文タイトル】
The Association of Social Capital with Depression and Quality of Life in S chool-Aged Children
著者:森裕幸、髙橋芳雄、足立匡基、新川広樹、廣田智也、西村倫子、中村和彦

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