弘前大学

温暖化による生物の分布拡大が在来種に及ぼす影響を評価 トンボをモデルに温度上昇で在来種の採餌量が減少することを解明

2023.12.07

プレスリリース内容

本学研究グループ

農学生命科学部生物学科 橋本 洸哉 助教(農学生命科学部ホームページ「教員紹介」へ)

本件の概要

近畿⼤学⼤学院農学研究科(奈良県奈良市)博⼠課程前期2年 長野 光希、博⼠課程後期1年 石若 直⼈、農学部博⼠研究員 平岩 将良、准教授 早坂 大亮らの研究グループは、国⽴環境研究所(茨城県つくば市)特別研究員 瀬古 祐吾、弘前大学農学生命科学部(⻘森県弘前市)助教 橋本 洸哉、九州産業大学建築都市工学部(福岡県福岡市)教授 内田 泰三、シドニー大学名誉准教授 フランシスコ・サンチェス=バヨらと共同で、温暖化に伴い急速に⽣物の⽣息地が変化した場合に、分布を拡⼤させた種(分布拡大種)が在来種に対してどのような影響を及ぼすのかについて、トンボをモデルに評価しました。その結果、分布拡⼤種の存在が、温度上昇に伴う在来種の採餌量減少に影響を与える可能性を⽰しました。本研究成果は、分布拡大種が在来種に与える影響が温度上昇で深刻化する科学的実態を、初めて実証したものです。今後、他の⽣物種においても同様の研究が進むことで、生物・生態系に対する温暖化の脅威の真相究明につながることが期待されます。
本件に関する論文が、令和5年(2023年)11⽉22⽇(⽔)に、英国王⽴協会が発⾏する科学誌 Royal Society Open Science(ロイヤル ソサエティ オープン サイエンス) にオンライン掲載されました。

温暖化進⾏により分布拡⼤種が 在来種に与える影響
(写真提供︓山元駿介)

本件のポイント

  • トンボをモデルとして⽤い、分布拡⼤種が在来種に及ぼす影響が、温暖化に起因する温度上昇でどのように変化するかを世界で初めて評価
  • 温度が上昇するにつれて分布拡⼤種による影響が⼤きくなり、在来種の採餌量は減少
  • 本研究成果をもとに、野外環境や他の⽣物でも同様の検証を⾏うことで、温暖化で分布拡⼤種がもたらす脅威のプロセスやメカニズムの解明につながる

本件の背景

近年の温暖化進行に伴い、低緯度の暖かい地域から⾼緯度の冷涼・寒冷な地域に⽣息地を拡⼤させる⽣物の存在が、「分布拡⼤種」として多数報告されています。温暖化による分布拡⼤種の例として、サンゴや蚊、トンボなどが挙げられます。

⼀般的に、生物は生息地の気候に適応しているため、温暖化により気温が上昇するだけでも生態に何らかの悪影響が及ぶうえ、在来種は分布拡大種との間で⾷料獲得の争い(資源競争)だけでなく、直接的に攻撃されるといった脅威にもさらされます。その結果、分布拡⼤種による在来種の排除が生じ、⽣態系の構成種が置換(競争的置換)されることで、生態系の質が⼤きく変化してしまう可能性があります。そのため、分布拡大種の⽣態影響を迅速かつ正確に評価する必要があります。しかし、分布拡大種が在来種に及ぼす影響が、温度上昇によってどのように変化するかを調査した研究は、これまで国内外問わずありませんでした。

本件の内容

研究グループは、分布拡大種のうち北半球側に⽣息する種を「分布北上種」として着目し、⽣態系への影響を評価しました。具体的には、台湾から日本に侵入して以降、急速に分布を拡大させている「ベニトンボ」を分布北上種のモデルとして、また、ベニトンボの⽣息環境や餌資源の重複が⽰唆される「シオカラトンボ」を在来種のモデルとして、それぞれ選びました。餌資源をめぐる両種の関係性を評価するため、トンボの幼虫であるヤゴを⽤いて、計3温度帯(27度、29度、31度)で各種が単独で存在する場合の採餌量を基に、両種が対峙した場合の採餌量の変化や、敵対的な行動の有無などについて、実験室内で評価しました。その結果、同⼀環境下にベニトンボがいたとしても、シオカラトンボの採餌量は基準温度である27度が維持される限り変化せず、温度が上昇するにしたがって、シオカラトンボの採餌量は明確に減少していきました。⼀⽅で、ベニトンボの採餌量は、いずれの条件でも温度上昇に伴い増加し、シオカラトンボから受ける負の影響がないということが分かりました。ここから、さらなる温暖化の進行は、分布北上種から在来種に対する負の影響を強め、結果的に⽣態系の改変をもたらす可能性が⽰唆されました。

今後、野外環境や、他の⽣物でも同様の検証を⾏い、結果の共通性や相違性を明らかにすることで、温暖化で分布拡⼤する⽣物がもたらす⽣態学的脅威の法則やメカニズムの真相究明につながることが期待されます。

論文掲載

  • 掲載誌:Royal Society Open Science(インパクトファクター︓3.5@2022)
  • 論文名:Global warming intensifies the interference competition by a poleward-expanding invader on a native dragonfly species(地球温暖化は極⽅向に分布を拡⼤させる侵⼊⽣物による在来トンボ種への⼲渉型競争を激化させる)
  • 著者:⻑野 光希1*、平岩 将良2*、石若 直⼈1、瀬古 祐吾1,3、橋本 洸哉3,4、内⽥ 泰三5、Francisco Sánchez-Bayo6、早坂 大亮2※(*筆頭著者 責任著者)
  • 所属:1.近畿⼤学⼤学院農学研究科、2.近畿⼤学農学部、3.国⽴環境研究所、4.弘前⼤学農学⽣命科学部、5.九州産業⼤学建築都市⼯学部、6.シドニー⼤学
  • 論文掲載:https://doi.org/10.1098/rsos.230449
  • DOI:10.1098/rsos.230449

プレスリリース

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本学お問合せ先

弘前大学農学生命科学部生物学科 助教 橋本 洸哉
TEL:0172-39-3801
E-mail:hashimoto.koya4hirosaki-u.ac.jp