弘前大学

2023年10月鳥島近海津波の謎 ―1時間半の間に14回の津波が発生―

2024.01.25

プレスリリース内容

本学研究者

大学院理工学研究科 前田 拓人 教授(「研究者総覧」の研究者ページへ)

本件のポイント

  • 2023年10月、大きな地震が観測されていないなかで、伊豆・小笠原諸島と関東から沖縄にかけての広い範囲で波高数十センチの津波が観測され、津波注意報が発出されました。
  • 本州沖合で観測された津波の波形記録の解析によって、約1時間半の間に14回の小規模な津波が繰り返し発生し、これらが重なって波高が増幅したことがわかりました。
  • 本研究は、短時間で津波が繰り返し発生することによる増幅現象の観測を初めて報告したことに加え、その成果は今後、鳥島近海で津波を繰り返し発生させた海底変動現象の実体解明に役立つと期待されます。

14回発生した中規模な津波が重なり合って波高が増幅した

本件の概要

東京大学 地震研究所の三反畑修 助教、佐竹健治 教授、武村俊介 助教、綿田辰吾 准教授、弘前大学大学院 理工学研究科の前田拓人 教授、国立研究開発法人 防災科学技術研究所の久保田達矢 主任研究員の共同研究チームは、2023年10月に大きな地震を伴わずに鳥島近海で発生し、日本沿岸の広範囲で観測された「鳥島近海津波」の特異な発生過程を明らかにしました。

本研究では、紀伊半島から四国の沖合の海底に設置された水圧計の津波記録を解析し、2023年10月9日午前5時頃から約一時間半の間に、鳥島近海で津波が14回繰り返し発生したことを明らかにしました。これらの津波の発生時刻は、マグニチュード4~5の中規模地震の発生時刻とほぼ一致し、これらの地震によって発生した小規模な津波が重なり合ったため、津波波高が約二倍に増幅しました。このような津波波高の増幅現象を観測、立証した世界で初めての研究です。また、中規模地震と津波の同時発生が明らかになり、鳥島近海で繰り返し発生した海底変動現象の実体解明に役立つことが期待されます。

本件の内容

2023年10月9日、伊豆諸島・鳥島近海が発生域と見られる津波(鳥島近海津波)が、伊豆・小笠原諸島と関東から沖縄にかけての広範囲の沿岸部に押し寄せ、波高数十センチの津波が各地で観測されました。このとき、津波を引き起こすような規模の大きい地震は起こっていなかったため、地震観測に基づく既存の津波警報システム(注1)では対応できず、津波が八丈島に到達した後の津波注意報発令となりました。こうした特異な津波を予測するためには、その発生過程を明らかにする必要があります。

本研究チームは、防災科学技術研究所が運用する、紀伊半島から四国の沖合に設置された海底地震・津波観測網DONET(注2)で観測された津波と地震波の波形記録の解析を行いました。その結果、10月9日の午前4時53分頃から6時26分までの約一時間半の間に、合計14回の津波が立て続けに発生していたことを明らかにしました。さらに、6時00分以降に発生した比較的大きな波高を持った複数回の津波については、津波発生の繰り返し間隔と津波の周期がともに数分程度と近かったため、津波の山と谷が多重に重なり合って津波の波高が二倍ほどに増幅していたことが分かりました。また推定された14回の津波は、鳥島の南方約70 kmに位置する海底火山・孀婦(そうふ)岩(注3)の周辺で繰り返していた、マグニチュード4〜5の中規模地震とほぼ同時に発生していたことが分かりました。10月下旬には、鳥島から孀婦岩にかけた周辺海域に浮遊軽石が発見(注4)されており、繰り返し発生した地震・津波現象と、海底火山活動との密接な関連が示唆されています。

本研究では、津波を発生させる海底変動現象が数時間のうちに十回以上も頻発し、小規模な津波の重ね合わせによって津波波高が増幅するという稀有な現象を、世界で初めて観測・立証しました。また、これらの複数回の津波がいずれも中規模地震と同時に発生していたことを明らかにし、今回の鳥島近海津波の原因となった未知なる海底変動現象のメカニズム解明に向けた研究を進展させ、将来的な津波警報システムの精度向上に役に立つことが期待されます。

本研究成果は、米国科学誌 Geophysical Research Letters に掲載されました。

図1:2023年10月9日に鳥島近海で発生した特異な津波

(左図)伊豆諸島・鳥島近海の海底地形。多くの活火山である火山島・海底火山(赤色三角形)が連なっている。2023年10月9日の津波発生領域は、孀婦(そうふ)岩から30—40km南西の海域で発生したと見られ、この領域では同日午前4時頃から複数のマグニチュード4〜5の中規模地震が観測されていた(黒丸)。
(右図)海底地震・津波観測網DONETの42観測点で記録された津波波形。津波は早いところで午前5時40分頃から観測され始め、それから1時間20分ほど遅れて午前7時頃から最大の津波波高を記録した。

図2:立て続けに発生した複数回の津波の重ね合わせによって再現されたDONETの津波波形記録

中規模地震が発生した時刻(x印つき灰色破線)に発生した14の津波波形(黒線1〜14)の重ね合わせによって得られた津波波形(青線)が、実際に観測された波形(赤線)を高精度に再現している。特に、後半の津波(黒線9〜14)は各津波波形の山と谷のタイミングがそれぞれほぼ一致したため、重ね合わさった津波の波高は、個々の波高の二倍程度に増幅した。なお、横軸はDONETにおける津波の観測時刻、縦軸は津波の振幅(各波形のゼロをずらして表示)を示している。

発表者・研究者等情報

東京大学 地震研究所
三反畑 修 助教
佐竹 健治 教授
武村 俊介 助教
綿田 辰吾 准教授

弘前大学 大学院理工学研究科
前田 拓人 教授

防災科学技術研究所 地震津波火山ネットワークセンター/地震津波防災研究部門
久保田 達矢 主任研究員

論文情報

  • 雑誌名:Geophysical Research Letters
  • 論文名:Enigmatic tsunami waves amplified by repetitive source events near Sofugan volcano, Japan
  • 著者名:Osamu Sandanbata*, Kenji Satake, Shunsuke Takemura, Shingo Watada, Takuto Maeda, and Tatsuya Kubota (*責任著者)
  • DOI:10.1029/2023GL106949
  • URL:https://agupubs.onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1029/2023GL106949

研究助成

本研究は、日本科学協会 笹川研究助成金「地震波・津波の観測および火山性地震モデルに基づく活動的海底火山の遠隔的モニタリング(課題番号:2023-2031)」の支援により実施されました。

用語解説

(注1)「地震観測に基づく既存の津波警報システム」
日本では、気象庁が津波警報システムを運用しています。津波警報や津波の発生は主に地震による海底の地殻変動に起因し、津波を予測するためには、まず地震の位置と規模を最初に特定します。その後、特定された地震の情報を元に、あらかじめ計算された津波予報データベースから津波の高さや到達時刻を検索し、その結果を元に津波警報や津波注意報が発表されます。

(注2)「海底地震・津波観測網DONET」
南海トラフでの地震や津波の観測を目的とした観測網で、国立研究開発法人 海洋研究開発機構によって開発されました。2016年4月に国立研究開発法人 防災科学技術研究所に移管されたこのシステムは、南海トラフ海域の四国と紀伊水道沖に51ヶ所の観測点を有し、様々なセンサー(強震計、広帯域地震計、水圧計、ハイドロフォン、微差圧計、温度計)を使用し、地殻変動から地震動や津波まで、様々な信号を捉えることが可能です。

付録図:海底地震・津波観測網DONETの観測点配置

(注3)「孀婦(そうふ)岩」
鳥島の南方約76kmに位置する標高約100mの突岩で、日本の気象庁により活火山として認定されています。孀婦岩の下には東西に連なる二つの高まりを持った海底火山体があります。海洋研究開発機構が2023年11月に行った海底調査によって、西側の高まりである「孀婦海山」付近に海底カルデラの存在が確認されました。

(注4)「鳥島から孀婦岩にかけた周辺海域に浮遊軽石が発見」
2023年10月20日に、海上保安庁の航空機調査によって、鳥島西方50 kmの海域において軽石とみられる浮遊物が確認されました。10月27日31日にかけての気象庁の海洋気象観測船による周辺海域調査によって、浮遊軽石が採取されました。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 地質調査総合センターと、東京大学 地震研究所による解析結果では、これらの軽石には直近の火山活動による噴出物が含まれていたことが報告されています。

プレスリリース

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本学お問合せ先

弘前大学大学院理工学研究科 前田 拓人 教授
TEL:0172-39-3608
E-mail:tktmydhirosaki-u.ac.jp