弘前大学

「培養肉」に関する意識の国際調査を実施 ~「培養肉」への関心に各国の意識の差~

2024.08.28

プレスリリース内容

本学研究者

人文社会科学部 日比野 愛子 教授
※日比野教授の紹介ページは こちら(「研究者総覧」の研究者ページへ)

本件の概要

国立大学法人 弘前大学 人文社会科学部の日比野 愛子教授の研究グループ*1*2と国立大学法人 東京大学 大学院情報理工学系研究科 竹内 昌治教授の研究グループ*1は、「培養肉に関する意識の国際比較調査」(対象:20歳から59歳までの一般男女総計4,416名 [日本、 シンガポール、 オーストラリア、デンマーク、イタリア]) を行いました。

シンガポールとイタリアでは「培養肉」が環境問題に役立つ可能性に賛同している人が多いなど地域による違いが見られるとともに、条件が整った場合に日本を含め各国で5割以上が「培養肉」を食べてみたいと答えることがわかりました。

本調査内容は、2024年8月29日(木)に行われる「第6回細胞農業会議」 (東京大学伊藤謝恩ホール) ならびに2024年8月31日 (土) に行われる「日本社会心理学会第65回大会」(日本大学文理学部)で発表します。

調査実施の背景、目的

世界的な人口増加やライフスタイルの変化により、将来、地球規模での食肉消費量の増加が見込まれています。一方で、家畜の生産には大きな環境負荷がかかることや、飼料や土地の不足が大きな問題となっています。動物の個体からではなく、細胞を体外で組織培養することによって得られる「培養肉」は、家畜を肥育するのと比べて地球環境への負荷が低いことや、畜産のように広い土地を必要とせず、厳密な衛生管理が可能といった利点があるため、従来の食肉に替わるものとして期待されています。

「培養肉」は今までにない手法で作製された革新的な食品であることから、社会に受け入れられるかどうかは未知数ですが、世界的に注目は高まりつつあります。本研究グループはこれまで日本で「培養肉」に関する大規模意識調査を実施してきました。このたび、諸外国と比べたときの日本の人々の意識の特徴はどのようなものかを明らかにするため、「培養肉に関する意識の国際比較調査」を実施しました。

調査結果

「培養肉は世界の食料危機を解決する可能性がある」という意見には日本では46%の回答者が賛成を示しており、「培養肉」を積極的に推進しているシンガポールと同程度の割合が示されました。「培養肉」が社会課題の解決策として一定の理解を得られていることが推測されました (図1)。一方、「培養肉を試しに食べてみたい」と考える回答者は日本では3割強であるのに対して、シンガポールで6割、反「培養肉」法案を採用したイタリアでも5割強となっており、海外での受容性と日本の受容性との間にやや開きがあることが分かりました (図2)。

世界的に「培養肉」が期待されている背景には、環境問題への貢献につながる可能性を持つことがあります。シンガポールやイタリアでは「培養肉」が地球温暖化問題の軽減につながる可能性に賛同する回答割合が比較的高いことが明らかになりました (シンガポール54%、イタリア61%) が、日本の賛同割合は比較的低いことが明らかになりました (32%) (図3)。

「培養肉」が不安視されている背景の一つに食文化への影響があります。イタリアでは自国の食文化に誇りを持つ人の割合が高いことが示されました (図4)。ただし、他の国と比べてイタリアでは「培養肉」の受容性も比較的高く、食文化への関心が「培養肉」の導入と結びつく可能性も示唆されます。また不安視されている他の理由には安全性の問題も挙げられますが、安全性が確保された場合に食べてみたいと答える回答者は日本で5割まで上がることが明らかになりました (図5)。

「培養肉」に対する注目が高まる中、国際的な動向について確認することが重要です。日本でも、認知度を上げ、安全性を確認しつつ、食料問題への貢献や食文化とのつながりを議論することで、一般の人々の「培養肉」の受容性が向上する可能性が示唆されました。

*1 国立研究開発法人 科学技術振興機構 (JST) の「未来社会創造事業」に採択された、「3次元組織工学による次世代食肉生産技術の創出」 (研究開発代表者:竹内 昌治) の研究グループ (研究開発期間:2020年4月~2025年3月、グラント番号:JPMJMI20C1) 。
*2 国立研究開発法人 科学技術振興機構 社会技術研究開発センター (RISTEX) の「科学技術の倫理的・法制度的・社会的課題 (ELSI) への包括的実践 研究開発プログラム」に採択された、「持続可能社会に向けた細胞農業技術のELSI/RRIの検討」 (研究開発代表者:日比野 愛子) の研究グループ (研究開発期間:2021年10月~2025年3月、グラント番号:JPMJRX21J5) 。

【調査設計】
調査方法:インターネットリサーチ
調査対象者: 20歳~59歳の一般男女
有効回答人数:2,000名 (日本)、600名 (シンガポール)、600名 (オーストラリア)、600名 (デンマーク)、616名 (イタリア)
割付方法:性別 (男性、女性)と年代 (20-29歳、30-39歳、40-49歳、50-59歳)を均等割付 各250名 (日本)、各75~80名(シンガポール、オーストラリア、デンマーク、イタリア)
調査期間:2023年12月4日~12月6日 (日本)、2024年2月1日~3月4日 (シンガポール、オーストラリア、デンマーク、イタリア)

図1

図2

図3

図4

図5

プレスリリース

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本学お問合せ先

【研究内容に関すること】
弘前大学人文社会科学部 教授 日比野 愛子(ひびの あいこ)
E-mail:ahibinohirosaki-u.ac.jp

【取材・報道に関すること】
弘前大学 人文・地域研究科総務グループ
TEL: 0172-39-3187
E-mail:jm3187hirosaki-u.ac.jp