弘前大学

【プレスリリース】海洋投棄された廃タイヤがヤドカリを捕殺している(農学生命科学部)

2021.11.05

本件のポイント
  • 弘前大学農学生命科学部の曽我部 篤 准教授らのグループが、海洋投棄された廃タイヤによりヤドカリのゴーストフィッシング(幽霊漁業)が起きることを明らかにし、2021年10月27日発行の Royal Society Open Science 誌に発表した。
  • 実験的に海底に設置した6基の廃タイヤに1年間で1,278匹ものヤドカリが侵入していた。タイヤの内側は「ネズミ返し」のような構造で、表面の凹凸もないことから、タイヤの内側に侵入したヤドカリは脱出することができないことを水槽実験により明らかにした。
  • ヤドカリは沿岸生態系の物質循環に重要な役割を果たしているため、タイヤによるゴーストフィッシングの影響について更なる調査を行うとともに、その対策が必要である。
本件の概要

陸域に不法集積・不法投棄された廃タイヤが、悪臭や蚊、火災の発生源、水質・土壌の汚染源となる事は広く認知された環境問題である。水域においても有害物質の溶出や環境の物理的破壊など、廃タイヤによる水域生態系への負の影響が近年示唆されている。
弘前大学農学生命科学部の曽我部 篤 准教授は、沿岸の砂泥海底に不法投棄された廃タイヤの内側に、大量の巻貝の殻やヤドカリが存在する事を発見し、廃タイヤから脱出できなくなったヤドカリが死んでいるのではないかと考えた。すなわち、海洋投棄された魚網や蟹カゴなどの漁具によって、意図しない水産生物の捕殺が引き起こされる「ゴーストフィッシング(幽霊漁業)」と同様の現象が、廃タイヤによっても引き起こされている可能性がある。
そこで弘前大学農学生命科学部の高辻 貴一 君(当時学部4年生)と曽我部 篤 准教授は、野外に実験的に設置した廃タイヤの長期モニタリングにより、廃タイヤに捕獲されるヤドカリの種類と個体数の季節変動を追跡するとともに、水槽下の行動実験を通じて、タイヤの内側に侵入したヤドカリが外側へ脱出できるか検証した。陸奥湾沿岸の水深8mの砂泥海底に6基の廃タイヤを設置して、タイヤ内側に侵入したヤドカリを月1回採取し、その数と種類、体サイズを1年間継続的に調査したところ、主にケブカヒメヨコバサミとユビナガホンヤドカリからなるヤドカリ類が1年間で計1,278匹見つかった。
採取される個体数は冬期に増大し、春から初夏にかけて減少する傾向があり、平均するとタイヤ1基で1日あたり0.58匹のヤドカリがトラップされていた。水槽内に設置した廃タイヤの内外にヤドカリを放して、タイヤの内外への移動を観察したところ、タイヤ外側から内側への侵入はユビナガホンヤドカリでは全実験の66.7%、ケブカヒメヨコバサミでは50%で起こっていたが、タイヤの内側から外側への脱出は2種いずれでも起こらなかった。
以上の結果から、海洋投棄された廃タイヤの内側に侵入したヤドカリが、タイヤの構造上脱出する事が出来ずに死んでしまうゴーストフィッシングが、自然界で起きている事が強く示唆された。廃タイヤによるこのような環境影響を明らかにしたのは、本研究がはじめてである。ヤドカリは生物の死骸や有機物片を摂食する「海の掃除屋」として、また、肉食性の魚類や大型甲殻類の餌として、沿岸生態系の物質循環に大きく貢献しており、ヤドカリ個体数の減少は様々な生態的影響を引き起こすおそれがある。不法投棄に限らず、廃タイヤが船体の衝撃吸収材や魚礁として二次利用されていることからも、相当量が海洋に供給されていると推測され、ゴーストフィッシングを防ぐための対策が必要である。
この研究成果は、2021年10月27日発行のRoyal Society Open Science誌に掲載された。
■プレスリリースの詳細はこちら

廃タイヤから脱出できなくなったヤドカリ
廃タイヤ内に侵入したヤドカリの月ごとの捕獲数(棒グラフ)と累計捕獲数(折れ線グラフ)