弘前大学

心理教育プログラムにより抑うつ傾向が低減し援助要請スキルが向上する

2026.06.26

プレスリリース内容

思春期の子どもを対象とした心理教育プログラム「ひとりぼっちでも前向きな考え方ができ いざとなったら助けを求められる教育(e-BOCCHI)」を開発しました。これを中学2年生を対象に実施したところ、抑うつ傾向が減少し、周囲に助けを求める力(援助要請スキル)が向上することが確認されました。

思春期の時期に社会的孤立(ひとりでいること)や孤独を感じることは、将来的なメンタルヘルスの不調につながるとされており、これらの問題が深刻化する前に、予防に取り組むことが大切です。しかし、これまでの研究では、思春期の子どもを対象とした社会的孤立や孤独についての心理教育プログラムは非常に少なく、支援も個別的な対応にとどまっていました。

本研究では、「ひとりぼっち」のさまざまな側面に気づくことを目的として、学校で実施可能な、社会的孤立と孤独を予防するための心理教育プログラム「ひとりぼっちでも前向きな考え方ができ いざとなったら助けを求められる教育(通称:e-BOCCHI)」を開発しました。このプログラムを中学2年生を対象に実施したところ、抑うつ傾向や周囲に助けを求める力(援助要請スキル)がプログラムを受ける前よりも改善し、孤独感や自尊感情についても、わずかながらもポジティブな変化があることが確認されました。この結果は、e-BOCCHIを通じて、ネガティブに捉えられやすい「ひとりぼっち」にもポジティブな側面があること、ゆるやかな人との付き合い方や困ったときに援助を求める方法を学ぶことに一定の効果があることを示しています。

e-BOCCHIは、個人だけでなく、所属する集団に対しても、「ひとりぼっち」の考え方を見直すきっかけをもたらすと考えられます。今後、本プログラムの効果について、さらに検証を進めます。

研究代表者

  • 筑波大学医学医療系
    太刀川 弘和 客員教授
  • 弘前大学大学院保健学研究科
    櫛引 夏歩 助教
  • 東洋学園大学人間科学部
    相羽 美幸 教授

研究の背景

社会的孤立注1や孤独注2は世界的にも大きな課題になっています。これらは、発達の早い段階で経験することにより、その後の健康状態に悪影響を及ぼすと考えられており、とりわけ、友人との関係や社会との交流が重要な時期の思春期の子どもにとっては、将来、大きな問題につながる可能性があります。しかしながら、これまでの研究では、社会的孤立や孤独に伴って生じる問題を未然に防いだり、深刻化を抑えるための予防的な介入法はあまり扱われておらず、こういった問題を生み出す背景(孤独を否定的に捉えがちな社会の風潮など)にも働きかけるような、多くの人々を対象とする取り組みもほとんど行われていません。

研究内容と成果

本研究では、思春期の子どもを対象とした社会的孤立と孤独の予防を目標とする心理教育プログラム「ひとりぼっちでも前向きな考え方ができ いざとなったら助けを求められる教育(education for Boosting Communication and Confidence for Healthy Independence;e-BOCCH)」を開発し、その効果を検討しました。このプログラムは学校で実施することを想定し、全3回(1回あたり約50分)の授業から構成されています。e-BOCCHIには教材に加えて、授業の進め方や台本を記載したマニュアルも用意されており、教育に関わるすべての人が実施できるようにしました。本研究では心理師、医師、ソーシャルワーカー、養護教諭らが授業を行いました。第1回では「ひとりぼっち」のさまざまな考え方や捉え方、第2回ではゆるやかな人間関係の大切さと作り方、第3回ではひとりで楽しめる活動と助けの求め方を学んでいきます。ワークやロールプレイなどを多く含み、社会的孤立や孤独を表すキャラクターを用いた教材や動画を使用することで、中学生が理解しやすい内容となるように工夫しました(図1)。

図1

図1 e-BOCCHI の内容と登場するキャラクター
上段はe-BOCCHIの第1回から第3回までの内容の概要、下段は社会的孤立や孤独といった目に見えない概念をキャラクターとしてそれぞれ表現したものを示している。「コリトゥン」は客観的にはひとりでいる状態ではあるものの、その状態に対して中立的な考えを持っているキャラクターで、社会的孤立を表現している。「コドクン」は社会的孤立の状態は良くないと考え、ひとりぼっちの自分をネガティブに捉えている。「スティグマン」は、ひとりぼっちは良くないことであるという考えを広め、ひとりぼっちに対する固定的な見方を高める。「ココー」は、ひとりぼっちでも、ひとりで楽しめることはたくさんあると考え、自由を感じている一方で、困ったときには助けを求めることができる。

本研究への協力に同意した3つの中学校において、中学2年生324名を対象にe-BOCCHIを実施し、全3回のすべての授業に参加し、アンケート調査への回答を完了した263名を分析対象にしました。アンケート調査は、第1回目の授業が始まる約1週間前と、第3回目の授業が終了した直後の計2回実施しました。生徒たちの孤独感、抑うつ傾向、周囲に助けを求める力(援助要請スキル)、および自尊感情を測定しました。その結果、授業後の抑うつ傾向や援助要請スキルは、授業前よりも有意な改善を示していました。孤独感と自尊感情においても、有意差は認められませんでしたが、授業前よりも授業後の方が肯定的な方向にわずかに変化していました(図2)。

図2

図2 e-BOCCHI 実施前後での変化
図中でpが.05未満であれば、統計的に意味のある変化であることを意味する。また、dは変化の程度を表す(一般に、d=0.2程度は小さな変化、d=0.5程度は中くらいの変化、d=0.8以上は大きな変化と考えられている)。抑うつ傾向および援助要請では意味のある変化が、孤独感や自尊感情ではわずかな変化が確認された。学校単位や学級単位など、健康な生徒も対象にしたプログラムの実施においては、小さな効果であっても意義があるとされていることから、e-BOCCHIには一定の効果があると考えられる。

今回の成果は、少なくともe-BOCCHI の実施直後に、生徒のメンタルヘルスが向上することを示しています。これまで、「ひとりぼっち」はネガティブなものと考えられてきました。しかし、e-BOCCHIは「ひとりぼっち」のポジティブな側面(例:ひとりの時間を充実させることで、自分の成長につながることもある)も考慮しており、これにより、生徒が孤独やひとりの時間をより柔軟に捉えられるようになる可能性が示されました。また、必要なときに周囲に助けを求める力を身に付けることは、将来の心身の不調を予防することにもつながると期待されます。

今後の展開

本研究では、e-BOCCHIのプログラム実施前後の変化について検討しました。今後は、e-BOCCHIの効果がプログラム実施後にどの程度持続するのかを明らかにするために、継続的な調査を行う予定です。また、学校現場で実施しやすい教材や指導マニュアルの整備を進め、より広い地域への普及を目指します。社会的孤立や孤独の予防などのメンタルヘルスを学校教育の中で扱うことは、子どもたちの心身の健康の維持と向上に役立つと考えられます。

用語解説

  • 注1 社会的孤立(Social isolation):社会的つながりの数が少ない、社会的接触の頻度が少ない、独居であること等、家族や友人やコミュニティといった他の人との社会的接触が客観的に少ない状態。
  • 注2 孤独(Loneliness):実際の対人関係と理想とする対人関係との間のギャップを知覚することにより生じる、主観的かつ否定的な感情。

研究資金

本研究は、JST社会技術研究開発センター(RISTEX)による「SOLVE for SDGs(社会的孤立・孤独の予防と多様な社会的ネットワークの構築)」(JPMJRX21K2)の支援を受けて実施されました。

掲載論文

■ 題名:Preliminary evaluation of a psychoeducational program for adolescents targeting loneliness and social isolation.
(青少年を対象とした孤独および社会的孤立に対する心理教育プログラムの予備的評価)
■ 著者名:N. Kushibiki, D. Sugawara, C. Yaguchi, Y. Takagi, R. Ishizuka, T. Ogawa, H. Midorikawa, S. Yonezawa, Y. Kohzuki, M. Aiba, Y. Shiratori, N. Kawakami, T. Hirokazu.
■ 掲載誌:Journal of Behavioral and Cognitive Therapy
■ 掲載日:2026年6月18日
■ DOI:10.1016/j.jbct.2026.100614

詳細

プレスリリース全文は こちら(1.34MB)

お問合せ先

弘前大学大学院保健学研究科 総務グループ
TEL:0172-39-5906
E-mail:jm5906hirosaki-u.ac.jp