イネの根系形成機構に関する制御メカニズムを分子・生理学的機構から明らかにした
2026.07.10
研究
プレスリリース内容
本件のポイント
弘前大学・農学生命科学部、ノッティンガム大学およびボン大学の国際研究チームは、痩せた土壌での栽培に有利な形質を持つ高リン利用効率イネ系統DJ123の解析に取り組み、2023年には、この系統に特徴的な高い側根密度の形成に寄与する複数の遺伝子座(L-type density on Crown Root 5 – qLDC5)を同定することに成功していた。そして今回、その後の継続的な研究により、この側根密度の増加が、より多くの側根原基を形成によるものか、それともより長い側根伸長によるものか、さらに、この密度増加がどのような分子・生理学的機構によって制御されているのか、といったqLDC5が側根形成を制御する仕組みを解明することに成功した。本研究はイネの根系形成機構に関する新たな知見を提供するものであり、今後は、根系形質を指標としたイネの育種や、貧栄養土壌でも高い生産性を維持できる品種の開発につながることが期待される。
本件の概要
研究の背景
イネの根系は、主根、冠根、およびそれらから発生する2種類の側根(L型側根とS型側根)で形成される。L型側根は分岐するのに対し、S型側根は分岐しない短いもので、それぞれ役割が異なる。同じイネでも根の形態は品種により異なり、水や栄養分の吸収力に影響を及ぼす。十分に水がある環境では、S型側根がリンや水の吸収に大きく貢献する。一方、土壌が乾燥すると、より地中深くへ伸びるL型側根の役割が重要になる(Kuppe et al., 2022; Watanabe et al., 2020)。また、干ばつ条件では、L型側根の数が増えることが知られており、イネが環境の変化に応じて根のつくりを変える能力を持つことが示されている(Hazman and Brown, 2018)。しかし、L型側根の形成やその数は品種によって大きく異なり、その仕組みはまだ十分には解明されていない。
本研究チームは2023年、L型側根が多いイネ品種DJ123と少ないイネ品種NERICA4を用いた解析により、冠根にL型側根を多く形成する遺伝子座であるqLDC5を発見した(Dinh et al., 2023)。そして本研究では、qLDC5がどのような仕組みでL型側根の形成を制御しているのかを詳しく調べた。この仕組みを明らかにすることは、リンの少ない土壌や乾燥した環境でもよく育つイネ品種の開発につながると期待されている。
研究の内容
根を土壌から掘り出す際には、根系(特に細い側根)が損傷する恐れがあり、土壌中で本来形成されている根系構造を正確に評価することは困難であった。本研究チームは、X線CTを用いてイネの側根を検出する技術を確立し、L型側根(LLR)の分枝を根を損傷することなく、ポットに育成したDJ123およびNERICA4の根の状態を解析することに成功した。その結果、DJ123の一次根上のLLR密度は4.2本 cm⁻¹であり、NERICA4の1.6本 cm⁻¹と比較して有意に高いことが確認された(図1)。
DJ123、NERICA4、およびその交雑系統であるNDJ188の3つのイネ系統を詳しく調べた結果、qLDC5は、側根原基の形成を促すことと、側根をより長く伸ばすことの2つの働きによって、L型側根の数を増やすことが分かった。さらに、植物ホルモンであるオーキシンを用いた実験では、3つの系統でオーキシンへの反応が異なることが分かり、qLDC5が根の成長を調節する仕組みに関わっていることが示された(図2)。
細胞や組織の中で、どの遺伝子がどれくらい働いているかを調べるトランスクリプトーム解析により、根系発達における遺伝的な違いの背景には、ジャスモン酸およびジベレリン代謝が関与するオーキシンを介した間接的な制御経路が存在することが明らかになった(図3)。NERICA4はリン欠乏に弱く、L型側根の密度が低いことに加え、アンモニウム態窒素を吸収する遺伝子(AMT1;1/2、AMT2;3)の働きが強いことが分かった。
一方、DJ123はリンが少ない環境でもよく育ち、L型側根密度が高く、硝酸態窒素を吸収する遺伝子(NRT1.18、NPF7.2)や植物ホルモンのジャスモン酸に関わる遺伝子(OsJAUP1)が強く働いていることがわかった。この結果から、ジャスモン酸とオーキシンが協調して側根の形成を調節していることが示唆された。図3は、qLDC5がジベレリン、オーキシン、およびテルペン生合成に関わる仕組みを調節することで、新しい側根の形成とその後の伸長を促し、L型側根の密度を高める仕組みを示している。
本研究の意義と今後の展開
qLDC5は主根における側根形成を促進することが確認された。すなわち、qLDC5の遺伝子座に有利対立遺伝子を有する系統では、特にL型側根の密度が高く、側根密度全体が増加した。これらの結果は、qLDC5が冠根だけでなく、主根における初期側根発達にも関与し、側根原基形成およびその後の伸長の両方に影響を及ぼすことを示している。また、本研究の結果から、オーキシン関連経路がqLDC5に関連した側根密度の制御に重要な役割を果たすことが明らかとなった。現在、qLDC5座を直接規定する責任遺伝子を同定するため、さらなるファインマッピングを進めている。
論文情報
■ 著者:Lam Thi Dinh, Bipin K. Pandey, Yoshiaki Ueda, Nicola Leftley, Brian S. Atkinston, Malcolm J. Bennett, Matthias Wissuwa
■ 掲載誌:Journal of Experimental Botany
■ DOI:https://doi.org/10.1093/jxb/erag232
詳細
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お問合せ先
弘前大学農学生命科学部 食料資源学科
助教 Dinh Thi Lam
TEL:0172-39-3892
E-mail:dinh.tlamhirosaki-u.ac.jp
※メールでお問い合わせいただけましたら、内容説明につきましてはZoom等でも対応いたします。




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