プレスリリース内容
本件のポイント
青森県のような多雪地域では融雪剤(塩化ナトリウム;NaCl)が大量に散布されますが、それが生態系に与える影響はほとんどわかっていませんでした。弘前大学大学院農学生命科学研究科 修士課程2年の寺嶋 公紀さん、農学生命科学部4年の川瀬 陽平さん、山尾 僚准教授(現・京都大学生態学研究センター教授)、東 信行教授(弘前大学農学生命科学部教授)、池田 紘士准教授(現・東京大学大学院農学生命科学研究科教授)、野田 香織准教授(弘前大学理工学研究科准教授)は、融雪剤が大量に散布される青森県の国道7号沿いで調査を行い、春には、国道に近い場所ほど土壌・植物・アリのNa濃度が高くなっていました。さらに、Na濃度の上昇に伴い、アリは、Na濃度の低い植物性の餌をより多く利用するように食性を変化させていることが示されました(図1)。この研究成果は、日本時間2026(令和8)年9月1日に、「Applied Soil Ecology」誌に掲載されました。
本件の概要
研究の背景
多雪地域では、毎年冬場に多くの融雪剤(NaCl)が主要道路に散布されます。そのため、主要道路沿いではNaClの量が極端に多くなっていると考えられ、その影響は植物をはじめ様々な生物に及んでいる可能性がありますが、その影響はほとんどわかっていませんでした。そこで本研究では、多雪地域である青森県を調査地とし、日本に広く生息する複数の草本植物と、それを利用する雑食性のクロヤマアリに与える影響を調べました。
研究の内容
次に、Na濃度の異なる餌を用いてアリの飼育実験を行ったところ、Na濃度の高い餌で2か月間飼育したアリは、その後Na濃度が低い餌をより好むようになることがわかりました。このことは、融雪剤散布がアリの餌の好みを変え、アリがNa濃度の低い餌を好むようになることを示唆しています。
Na濃度は一般に栄養段階が低い生物ほど低い、つまり動物より植物のほうが低い傾向があります。アリの飼育実験の結果をふまえると、融雪剤散布によってNa濃度が高くなっている国道沿いのアリの方が、よりNa濃度が低い餌である植物を利用する傾向を示すことが予想されます。この仮説について、窒素の安定同位体比によって栄養段階を調べる手法を用いて検証しました。その結果、春に、国道に近いほど、アリの栄養段階が低く、より植食性であることがわかりました(図2 d)。したがって、国道沿いのアリは融雪剤にさらされることでNa濃度の低い餌を好むようになり、より植食性になっていると考えられます。
本研究の意義と今後の展開
本研究結果は、冬の融雪剤の散布が、昆虫における体内へのNaの蓄積に伴って昆虫の行動を変え、食う食われるの関係のような生物間の関係を変えてしまうことを示しています。このように多雪地域では、人間活動によって、土や植物だけでなく、それを利用する昆虫の行動までも変えてしまうことが、本研究によって明らかにされました。日本は多雪地域が日本海側に広範囲に広がっていることから、本研究で明らかにされた生態系への影響は、日本の広い範囲で生じていると考えられます。
論文情報
■ 著者:Hiroki TERAJIMA, Youhei KAWASE, Akira YAMAWO, Nobuyuki AZUMA, Kaori NODA, Hiroshi IKEDA(寺嶋 公紀、川瀬 陽平、山尾 僚、東 信行、野田 香織、池田 紘士)
■ 掲載誌:Applied Soil Ecology
■ DOI:https://doi.org/10.1016/j.apsoil.2026.107417
詳細
プレスリリース全文はこちら(1.28MB)
お問合せ先
※メールでお問い合わせいただけましたら、内容説明につきましてはZoom等でも対応いたします。
【取材に関するお問い合わせ先】
弘前大学 農学生命科学部 生物学科
教授 東 信行
TEL・FAX:0172-39-3004
E-mail:azumahirosaki-u.ac.jp
東京大学 農学部 森林科学専攻 森林動物学研究室
教授 池田 紘士
TEL・FAX:03-5841-5217
E-mail:hiroikedag.ecc.u-tokyo.ac.jp



背景色
文字サイズ
Language
アクセス
お問い合わせ