弘前大学

【プレスリリース】弘前大学が青森県と共同で「青森県子どもの発達支援ガイドブック」を刊行

2022.03.30


図1.ガイドブック表紙

本件の概要

青森県子どもの発達支援ガイドブック(図1)は、令和2~3度弘前大学次世代機関研究「地域と協働して子どもの健やかな発達を明らかにする乳幼児コホート研究※1」の成果の一つとして、地域に貢献するために、国立大学法人弘前大学大学院医学研究科 神経精神医学講座 斉藤まなぶ准教授、同医学研究科附属子どものこころの発達研究センター 三上珠希特任助教らが、青森県と共同で作成しました。
本ガイドブックは、日常的に乳幼児の発達に関わる職種である、保育士、幼稚園教師、相談員、保護者を含めた養育者等を対象にしています。編集委員は学術関係者、自治体職員、相談事業所、当事者団体、保育・教育関係者などで構成され、それぞれの専門性を持 った方々から幅広く意見をいただいています。また、保護者や園の先生から良く受ける相談に現場でどのように対応すればよいのかについて、応用行動分析※2 に基づいた考え方が掲載されており、ガイドブックを参照しながら日常的に皆で話し合うことで新しい解決方法を見つけていける可能性があります。ガイドブックは1500部製本され、青森県内関係各所に無償配布されます。青森県のホームページからもPDFとして随時ダウンロードが可能となります。主に青森県内の機関及び保護者向けに作られておりますが、青森県外の方の活用も可能です。(図2)


図2.ガイドブック目次(ガイドブックより抜粋)

本ガイドブック作成の経緯

教育機関における特別支援教育(特に自閉症・情緒障害児学級)利用者は10年前の約3倍となっており、支援が必要な発達障害児の割合は6.5~10%と推定されています。国際的にも同じ水準です。これに対し、我が国の乳幼児健診での把握率は約1~2%にとどまっており、世界的に早期発見と早期支援が有用であるエビデンスが高まる中、我が国は諸外国と比べ10年の遅れがある状態です。

これらの地域の問題に対し、弘前大学は2013年度から弘前市と協働して5歳児発達健診を行い、2018年度からは3歳児発達健診も開始しました。さらに2019年度の青森県の発達障害児者初診待機状況および、施設利用待機状況の調査にアドバイザーとして協力し、不足している医療や施設の問題解決として、2020年度から青森県発達障害専門医療機関初診待機解消モデル事業を開始することになりました。青森県の初診待機事業は全国的にみてもかなり早い取り組みで、マンパワーや支援リソースの多い都市型とは違った地域型(医療機関外の自治体や発達障害者支援センターがアセスメント※3を行う)のモデルです。青森市と弘前市でモデル事業が展開され、弘前大学医学部附属病院は当初から連携医療機関、医師派遣による地域支援として参画しています。2年間の事業の利用状況の分析から、保護者の診断へのニーズの高さや自治体による健診体制の格差などが明らかになりました。2021年度に青森県が県内全自治体に行った調査において、乳幼児健診における発達障害児の把握率は約2%、半数の自治体で国が推奨するスクリーニング※4は用いられておらず、9割の自治体でプログラムを用いた保護者支援が行われていないことがわかりました。(2022年3月3日NHK青森のニュースで放映されました。)

弘前大学と青森県は、スクリーニングの導入や診断システムの構築に加え、支援リソースの少ない地域においても日常的に子どもの発達を支援できるよう、身近で支援できる大人たちに向けて、ガイドブックを作成する計画を 2020年度から立案し、2022年3月に無事刊行を迎えることができました。本ガイドブックは日常的に乳幼児の発達に関わる職種である、保育士、幼稚園教師、相談員、保護者を含めた養育者等を対象にしています。編集委員は学術関係者、自治体職員、相談事業所、当事者団体、保育・教育関係者などで構成され、それぞれの専門性を持った方々から幅広く意見をいただいています。また、保護者や園の先生から良く受ける相談に現場でどのように対応すればよいのかについて、応用行動分析に基づいた考え方が掲載されており、ガイドブックを参照しながら日常的に皆で話し合うことで新しい解決方法を見つけていける可能性があります。ガイドブックは1500部製本され、青森県内の関係各所に無償配布されます*。青森県のホームページからもPDFとして随時ダウンロードが可能です。主に青森県内の機関及び保護者向けに作られておりますが、青森県外の方の活用も可能です。


図3.Konomi さんの紹介(ガイドブックより抜粋)
なお、表紙のイラストは、発達障害当事者アーティストKonomiさんの作品を掲載しています(図3)。イラストは本ガイドブックのためにオリジナル作品「りんごコマリマ」です。Konomiさんは毎年政府が主導する世界自閉症啓発デーイベントにおいてイラストが採用されており、各地で作品展を開催しています。弘前市のイベントでもポスターへの採用、動画での作品展示など青森県の活動にご協力いただいています。

※製本したものは、青森県、弘前大学、青森県内3カ所の発達障害者支援センターにも100部ずつ在庫を置きます(詳細は後段に記載)。なくなり次第製本の配布は終了します。

弘前大学次世代機関研究の概要

弘前大学は2013年度から弘前市と協働して5歳児発達健診を行い、医学・心理学・保健学・教育学・社会経済学の分野横断型研究を進展させ、学術分野を大きく発展させました。弘前大学次世代機関研究「地域と協働して子どもの健やかな発達を明らかにする乳幼児コホート研究」は、科学的エビデンスにもとづいた社会実装と経済活動を行い、地域の自治体・企業との連携や研究協力を実現し、地域の発展にさらに寄与することを目的としました。その結果、学術分野のすべてにおいて研究が拡大するとともに、参画の範囲を弘前市から青森県に拡大することができました。成果物の一つとして、これまでの研究成果を活用して、青森県と共同で支援者支援のためのガイドブックを作成いたしました。
令和 2~3年度弘前大学次世代機関研究「地域と協働して子どもの健やかな発達を明らかにする乳幼児コホート研究」の全体の成果は、2022年3月1日~4月28日の期間、弘前大学研究・イノベーション推進機構ホームページ、令和3年度研究成果発表会(https://www.innovation.hirosaki-u.ac.jp/gakunai/seikahappyoukai)にて公開されています。

【青森県子どもの発達支援ガイドブックについて】
青森県子どもの発達支援ガイドブック
作 成:2022年3月
発 行:青森県発達障害者支援センター「ステップ」 監 修:国立大学法人弘前大学/青森県

【用語解説】
※1.コホート研究:同じ地域に住んでいる、同じ年に生まれたなど、共通の特性を持つ集団を追跡して、その集団から発生した疾患や健康状態の変化を観察して、各種要因との関連を明らかにする研究。
※2.応用行動分析:ABA(Applied Behavior Analysis)は、行動の前後を分析することでその行動の目的を明らかにし、前後の環境を操作して問題行動を解消する分析方法。自閉症児など、発達に課題がある子どもの問題行動を適正な行動に変えることに初めて成功した治療法として知られている。
※3.アセスメント:人やものごとを客観的に評価・分析すること。アセスメントの目的は状況を正しく評価・分析することで、適切な対応をとることである。
※4.スクリーニング:対象となる集団に対して実施する共通検査によって、目標疾患の罹患を疑われる対象者あるいは発症が予測される対象者をその集団の中から選別すること。

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