弘前大学

「その場」で測定 ! 燃料デブリ取り出し作業で発生する放射性物質 – 空気中のα粒子のリアルタイム・モニタリングによる作業者の安全性向上へ –

2022.05.20

プレスリリース内容

発表のポイント

  • 東京電力ホールディングス株式会社(以下、「東京電力」)福島第一原子力発電所(以下、「1F」)で今後始まる燃料デブリ取り出し作業※1では、作業員の内部被ばくを未然に防ぐため、吸入した際の内部被ばくの影響が大きいα線を放出する空気中の放射性微粒子(以下、αエアロゾル※2)濃度のモニタリングが重要です。
  • 燃料デブリが残存する格納容器(PCV)内は極めて高線量率であり、加えて100%に近い高湿度です。高濃度のαエアロゾルを、1F炉内の高湿度環境下でろ紙上に集塵し、半導体検出器で測定する従来のα線用ダストモニタの適用は非常に困難です。
  • 原子力機構はこうした現場を想定し、高濃度のαエアロゾルをろ紙を使わずにリアルタイムで測定できるシステム (in-situ alpha air monitor, IAAM)を開発しました(図1)。
  • IAAM は高湿度環境でも確実に動作し、1F-PCV内の想定濃度の30倍以上のαエアロゾルの放射能測定が可能であることを実証しました。
  • 燃料デブリ取り出し作業等で飛散する可能性のあるαエアロゾルを「その場」でモニタリングできれば作業の安全性が向上します。今後は東京電力と情報交換しつつ改良を進め、1F 廃炉現場での活用を目指し、廃炉作業の安全な遂行に貢献していきます。

図1)燃料デブリの取り出し(切断)時には、高濃度の α エアロゾルが発生します。その閉じ込めとモニタリングが安全な廃炉作業のカギであり、IAAMは高湿度・高放射線環境で高濃度のαエアロゾルを測定できます。

概要

国立研究開発法人日本原子力研究開発機構(理事長 小口正範、以下、「原子力機構」)福島研究開発部門 廃炉環境国際共同研究センター(CLADS)の坪田陽一研究員 (本務:核燃料サイクル工学研究所 放射線管理部)らは、国立大学法人 弘前大学 被ばく医療総合研究所と共同で、1F 廃炉における燃料デブリ取り出し作業において発生する、α線を放出する放射性微粒子の濃度を「その場」でリアルタイムに測定するためのシステム(in-situ alpha air monitor。以下、「IAAM」)を開発しました。

原子力施設では、粒子をろ紙上に集塵してα線用の半導体検出器で測定する「α線用ダストモニタ※3」が、作業時の内部被ばく防止のモニタリング等に使用されています。α線用ダストモニタは、ろ紙上に集塵されたαエアロゾルの総量を測定するため、空気中の濃度を得るためには、測定値の時間微分(または差分)を計算する必要があります。そのため濃度をリアルタイムに得ることができません。また、燃料デブリの取り出しにより大量の粒子が発生すると、集塵用のろ紙はすぐに目詰まりします。1F 原子炉内は高線量率なので、定期的なろ紙の交換も現実的ではありません。したがって、従来の「α線用ダストモニタ」とは異なる、ろ紙を使用しない測定手法が必要です。また高線量率・高湿度環境下では検出器が誤作動・故障しやすいため、そのような環境に対応するための仕組みも必要となります。

そこで研究グループは、ろ紙を使わずに非常に高濃度のαエアロゾル濃度をリアルタイムで測定できるシステム「IAAM」を開発しました(図 2)。IAAM は高線量率・高湿度環境で確実に動作します。また、最大 3.2×102 Bq/cm3 (1F-PCV 内の想定値の 30 倍以上、管理区域におけるPuの濃度限度の 108 倍以上)の濃度のαエアロゾルの測定が可能です。燃料デブリ取り出し作業の「その場」で、αエアロゾル濃度のリアルタイム・モニタリングが可能となれば、作業員の内部被ばくの未然防止が容易になり、安全性の大幅向上が期待できます。今後、1F 廃炉現場での活用を目指すとともに、廃炉作業の安全な遂行に貢献していきます。
本成果は学術誌「Nuclear Instruments and Methods in Physics Research Section A」の 2022年5月号(Vol.1030)に掲載されます(3月9日オンライン公開)。

図2)従来のダストモニタ(図中左)と IAAM(図中右)の比較。IAAM では流路入口のヒーターで空気を乾燥し、扁平型流路に垂直配置した検出器で α 線を計測します。検出器は薄膜シンチレータと多チャンネル光電子増倍管からなり、多チャンネルの信号を個別に数えることで、数え落としを軽減しています。

【用語解説】

※1 燃料デブリ取り出し作業
福島第一原子力発電所事故では核燃料や金属材料、コンクリートなどが高温で溶融・反応した後に冷えて固まり、燃料デブリを形成しました。現在はロボットアーム等を用いた「試験的取り出し」が検討されていますが、将来的な燃料デブリの本格的取り出しでは機械切断装置やレーザー切断装置など様々な工法の適用が検討されています。

※2 αエアロゾル
ここでは、溶け落ちた核燃料物質や燃料デブリを切断するときに発生するα線を放出する空気中の放射性微粒子を意味します。αエアロゾルは、β線やγ線を放出するエアロゾルよりも人体吸入時の内部被ばく影響が大きいため、万が一 PCV 外に漏れ出るとすると、作業員や周辺住民の内部被ばくにつながりかねません。

※3 α線用ダストモニタ
作業環境の空気中放射性物質濃度を計測する装置のことをダストモニタといい、その中でもα線の測定に特化したものを指します。一般的にはろ紙上に粒子を集塵し、集塵された粒子から出る放射線を放射線検出器で測定する構造となっています。

各研究者の役割

坪田 陽一(原子力機構) 研究計画立案、概念設計、性能実証手法の選定、性能実証試験、データ解析、論文作成(原案)
本田 文弥 (原子力機構) 性能実証試験
床次 眞司 (弘前大学)  試験環境の提供、データ解析の助言
玉熊 佑紀 (弘前大学)  性能実証試験
中川 貴博 (原子力機構) プロジェクト管理
池田 篤史 (原子力機構) プロジェクト監督、論文作成 (内容確認及び編集)

■ プレスリリースは こちら(1.1MB)