弘前大学

りんご園のハタネズミは冬季ギシギシ類をよく利用し、 晩冬~早春の餌は「果樹」か「ギシギシ類」のほぼ二択

2023.07.20

プレスリリース内容

本学研究グループ

弘前大学農学生命科学部 生物学科 ムラノ 千恵 研究機関研究員
弘前大学農学生命科学部 生物学科 東 信行 教授(農学生命科学部ホームページ「教員紹介」へ)

本件のポイント

  • 弘前大学農学生命科学部のムラノ 千恵 研究機関研究員と東 信行 教授、福山大学の佐藤 淳 教授、研究当時学部4年生の和田 崇さん、信州大学理学部附属湖沼高地教育研究センターの笠原 里恵 助教らの研究グループは、農業者団体下湯口ふくろうの会の協力の下、りんご園に生息するハタネズミを捕獲し11月~5月にかけて糞を採取、DNAメタバーコーディング解析によって月毎の餌資源を調査した。
  • 初冬は落果や多様な草本植物が利用されていたが、3月以降は果樹(根や樹皮)の利用頻度が高まった。また4月(消雪~草本植物再生前)の餌資源は、冬季に地下根茎を形成して大きなバイオマス量を維持するスイバ属草本と果樹にほぼ収斂した。
  • 本研究の成果は、2023年7月18日、国際誌Mammal Study(オンライン版)に掲載された。

研究の概要

近年、津軽地域においてハタネズミによる冬季の果樹の食害が顕在化し、その防除策が求められていますが、りんご園に生息するハタネズミの生態は十分理解が進んでいるとは言えません。本研究グループは、冬季に積雪下で活動するハタネズミの餌資源を把握することで、被害の具体的な発生時期や被害防除につながる知見が得られると考え、調査を行いました。

その結果、津軽の果樹園のハタネズミは初冬、園地に残された落果や多様な草本を餌として利用していました。最も高頻度で検出されたのはスイバ属のギシギシ類で、シロツメクサを含むマメ科草本やナデシコ科の草本もよく利用されていました(図1上)。

図1 糞中から検出された植物のDNA量割合(一部抜粋)

表1 果樹の各部位を利用していた個体数(利用率)


積雪期の捕獲調査風景

その後、消雪に伴い緑色植物が園地から消失する4月は、餌植物の多様性が低下し、ほぼ果樹とスイバ属草本の二者択一となりました(図1下)。スイバ属草本は、秋に越冬用の地下根茎を形成するため冬季のバイオマス量が大きく、ハタネズミにとって長期的に利用可能な餌資源となっていると考えられました。一般的に強雑草として積極的に農地から除去されることが多いスイバ属草本ですが、晩冬から早春にかけてはハタネズミの主要な餌資源となり、果樹の食害軽減につながっている可能性が示唆されました。

また本研究の分析では、検出された果樹が台木部由来か果実・枝部由来かを識別することも可能であることが示され、果樹被害につながる台木部分は、3月から4月にかけ高頻度で利用されていることが明らかになりました(表1)。

今後は、本研究によって得られた知見をもとに、被害防除につながる農地の下草管理の在り方を検討していく予定です。

論文情報

タイトル:Genetic analyses of Japanese field vole Alexandromys (Microtus) montebelli winter diet in apple orchards with deep snow cover
積雪地域のリンゴ園におけるハタネズミAlexandromys (Microtus) montebelli の冬季食性解析
著者:C. Murano, J. J. Sato, T. Wada, S. Kasahara, and N. Azuma ムラノ千恵・佐藤淳・和田崇・笠原里恵・東信行
掲載紙:Mammal Study(英文誌)DOI: 10.3106/ms2023-0015

プレスリリース

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お問合せ先

弘前大学農学生命科学部 研究機関研究員 ムラノ千恵
TEL:0172-39-3824(東研究室)
E-mail:muranohirosaki-u.ac.jp