山岳地域における人口増加が地すべりリスクを増大させる: IPCC地域における地すべりへの曝露状況の評価
2024.09.20
研究
プレスリリース内容
本学研究グループ
弘前大学農学生命科学部 地域環境工学科 鄒 青穎 講師(農学生命科学部ホームページ「教員紹介」へ)
本件の概要
- 大規模な地すべりに関する世界的なデータベースを使用し、9つのIPCC地域における地すべりへの曝露状況を初めて世界規模で推定しました。
- 本研究の成果は、地域社会が地すべりリスクに適応するための具体的な施策を策定する際に、重要なデータを提供します。
調査実施の背景、目的
地すべりは、ゆっくりと進行するのが特徴で、建物やインフラに損害を与えるだけでなく、広範囲に及ぶため、一度発生すると多くの犠牲者を出す可能性もあります。世界的に見ると、山岳地域の人口が12億8000万人に達し、急斜面に定住する集落が増えることで、地すべりの危険性が高まっています。地すべり災害によって社会が被る損害は、「ハザード」「曝露」「脆弱性」の3つの要素によって左右されるとされていますが*1 、これまで地すべりへの曝露状況を体系的に評価したデータはほとんどありませんでした。
今回は、研究の主要著者であるポツダム大学の博士課程の学生Joaquin V. Ferrer氏、ポツダム気候影響研究所の研究者、そして弘前大学農学生命科学部の鄒青穎講師が国際的研究グループと協力し、世界的な地すべりへの曝露状況を評価しました。研究では、9つのIPCC地域*2 における7,764件の大規模な(面積 ≥ 0.1 km²)地すべり*3 が及ぶ範囲内にある集落の分布状況を「地すべりへの曝露」として推測しました。集落の分布データは、ドイツ航空宇宙センターが提供しているWSF(World Settlement Footprint)2015を使用しました。
調査結果
上記の7,764件の地すべりの9%で、平均してその面積の12%が人々の居住地となっていることが推定されました。また、中央アジアを除くほとんどの地域で、山間部の都市化が地すべりへの曝露を増加させる重要な要因であることが明らかになりました。一部の地域では、洪水のリスクが人々を不安定な斜面に追いやることも示されています。特に東アジアでは、都市化が進む地域で緩やかな斜面でも地すべり曝露が増加していることが確認されました。地すべりのリスクは気候変動や山間部の都市化によって増加する可能性があるため、本研究で提案された手法は、さまざまな地理的スケールでの将来の評価や、新しい地すべり地の分布データや人口変化と組み合わせて利用することで、地すべり曝露の変化をより正確に把握し、効果的な対策を講じるための重要な情報を提供することが可能です。
なお、本研究成果は、2024年9月17日(火)に公開されたEarth’s Future誌に掲載されており、アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union)の公式ホームページ*4 でも紹介されています。
論文情報
題名:Human settlement pressure drives slow‐moving landslide exposure
著者名:Joaquin V. Ferrer*, Guilherme Samprogna Mohor, Olivier Dewitte, Tomáš Pánek, Cristina Reyes‐Carmona, Alexander L. Handwerger, Marcel Hürlimann, Lisa Köhler, Kanayim Teshebaeva, Annegret H. Thieken, Ching‐Ying Tsou, Alexandra Urgilez Vinueza, Valentino Demurtas, Yi Zhang, Chaoying Zha,o Norbert Marwan, Jürgen Kurths, Oliver Korup
DOI: https://doi.org/10.1029/2024EF004830
参考情報
*1:地すべり災害によって社会が被る損害は、「ハザード」「曝露」「脆弱性」の3つの要素によって決まります。
「ハザード」とは、地すべりの発生やその規模を指します。
「暴露」とは、人々や財産などが、どの程度地すべりの危険にさらされているかを指します。本研究では、地すべりの影響を受ける地域にある集落の分布状況を調査しました。
「脆弱性」とは、地すべりによる災害に対しての、被害の受けやすさや対応能力の低さを指します。
これらの「ハザード」、「暴露」、および「脆弱性」が組み合わさることで、地すべり災害リスクが決まります。
*2:IPCC地域は、気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が定義した地域区分で、気候変動の影響を評価するために世界をいくつかの地域に分けたものです。本研究の調査地域の9つのIPCC地域は、東アジア、地中海地域、北東アフリカ、南米北西部、南東アフリカ、チベット高原、中央アジア、中央ヨーロッパ、北米西部です。
*3:本研究で扱っている地すべりのデータには、地すべりだけでなく「重力変形斜面」も含まれています。重力変形斜面とは、主に重力の影響で地層がゆっくりと変形する斜面のことです。こうした斜面では、地盤全体が長い時間をかけて少しずつ重力の力で変形していきます。重力変形斜面は、深層崩壊の前兆と考えられており、大雨や地震が引き金となって斜面の深い部分まで崩壊が進み、急激で大規模な崩壊が発生する可能性があります。
*4:アメリカ地球物理学連合(American Geophysical Union)の公式ホームページ:
https://news.agu.org/press-release/slow-landslides-growing-threat-mountain-communities/
アメリカ地球物理学連合(AGU)は、1919年に設立され、世界148カ国に約6万人の会員を擁する、地球物理学分野で世界最大の国際学会です。
プレスリリース
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本学お問合せ先
弘前大学農学生命科学 地域環境工学科 講師 鄒青穎(ツォウ チンイン)
TEL:0172-39-3842
E-mail:tsou.chingyinghirosaki-u.ac.jp