弘前大学

令和8年熊本地震被災地支援活動報告会を開催しました

2026.08.24

2026(令和8)年8月19日、弘前大学は、熊本地震の被災地支援活動に関する報告会を開催しました。

本報告会では、熊本県宇城市や氷川町等で実施した避難所支援活動について、派遣教員が現地で確認した被災者の生活実態や支援内容、活動を通して見えてきた課題、そして今後の防災対策への提言について報告しました。

発災直後の現地調査と支援準備

2026(令和8)年7月28日に発生した熊本地震では、熊本県宇城市と氷川町で最大震度7を観測し、多くの住民が避難生活を余儀なくされました。断水が長期化するなか、猛暑も重なり、避難所や車中泊での生活による熱中症や災害関連死のリスクが懸念される状況でした。こうした状況を受け、災害看護を専門とする冨澤 登志子教授(保健学研究科長)は、被災地における避難所支援の必要性を福田学長へ提言し、大学はこれを受けて被災地への教員派遣を決定しました。

今回の支援活動では、発災翌日の7月29日に因 直也助教が先遣隊として現地入りし、熊本県内の避難所6か所で環境測定や聞き取り調査を実施しました。その後、現地のニーズを分析したうえで、8月4日から10日にかけて保健学研究科教員を中心とした支援チームを派遣し、本格的な避難所支援を展開しました。

平時の演習が活かされた支援活動

大学院保健学研究科では、酷暑期や厳冬期の避難生活を想定した実践的な避難所演習を継続して実施してきました。2026年7月には「2026あおもり酷暑期避難所演習」を開催し、トイレや水道が使用できない状況や車中泊避難を想定した体験型演習を実施しました。演習では、避難生活に伴う健康課題への対応や避難所環境の改善手法を検証するとともに、自治体や関係機関との連携体制の強化にも取り組みました。

こうした演習で培った知見は、今回の被災地支援にも活かされました。現地では、避難所内外の気温や湿度、暑さ指数(WBGT)の測定を行うとともに、被災者や自治体職員への聞き取りを実施しました。その結果、避難所では雑魚寝状態が続き、断水やトイレ環境、栄養の偏った食事など、生活環境上のさまざまな課題が確認されました。

支援チームは、自治体や関係機関と連携しながら、段ボールベッドの導入や避難スペースのゾーニング、生活動線の整理、健康被害予防に関する情報提供などを実施しました。

特に、段ボールベッドの導入にあたっては、自治体職員自身も被災者であることを踏まえ、新たな負担を生じさせない支援のあり方を意識しました。支援チームは段ボールベッドの必要性や早期導入の意義を説明するとともに、被災者への説明、清掃、ゾーニング、搬入、組立、配置調整といった実務を担うことを提案し、導入後も自治体が継続して運営できるよう担当者とともに配置や運用方法を検討しました。

避難所には既に生活の場とコミュニティが形成されており、単に物資を届けるだけでなく、既存の生活環境に配慮しながら居場所づくりを進めることが求められました。家族構成や健康状態などに応じて居場所を調整するなど、被災者が安心して過ごせる環境づくりに取り組み、その結果、教員チーム計3班が関与した段ボールベッドの設置は約430台にのぼり、避難所環境の改善につながりました。

実際の避難所での支援活動

実際の避難所での支援活動

環境改善の様子

環境改善の様子

また、今回の活動では現地支援と並行して後方支援も実施されました。冨澤研究科長を中心に、派遣者の調整や関係機関との連携、支援物資の確保、情報共有などを行い、現地で活動する教員を継続的に支える体制を構築しました。現地支援と後方支援が一体となって機能したことで、被災地の状況変化に応じた柔軟な支援活動につながりました。

「笑顔と拍手が忘れられない」

現地では、断水や猛暑の影響に加え、避難所ごとに異なる課題への対応や関係機関との調整が求められ、避難者同士の関係性にも配慮する必要がありました。人や物資があっても、それだけでは生活環境は改善されず、支援には丁寧な対話と合意形成が欠かせませんでした。

一方で、支援活動全体の調整役を担った因助教は、ある避難所で段ボールベッド導入の説明をした際の出来事について、「避難されている方々に、自治体の方を通じて『明日から段ボールベッドが入ります』とお伝えしたところ、避難者の皆さんが笑顔を浮かべ、拍手をしてくださいました。それがとても嬉しかったです」と振り返りました。

段ボールベッドの導入後、現地では、「身体が楽になった」「起き上がりやすくなった」といった声も聞かれ、生活環境の改善が被災者の安心感や心身の負担軽減につながったことが報告されました。

現地で見えた課題

報告会では、支援活動を通じて見えてきた課題についても共有されました。人員や物資が確保されていても、それだけでは避難所の生活環境は整わず、多くの関係者との綿密な調整が必要であることが明らかになりました。

派遣教員からは、支援団体が増えるほど情報共有や役割分担が重要となり、適切な調整機能がなければ支援の重複や偏りが生じることが報告されました。また、避難所は単なる一時的な滞在場所ではなく「生活の場」であり、健康管理だけでなく、プライバシーの確保、子どもの遊び場、要配慮者への対応など、多面的な視点で環境を整える必要性が指摘されました。

また、初動対応の重要性や避難所支援を担う人材育成の必要性、制度上の課題など、避難所支援を取り巻く構造的な課題についても提言がありました。

青森県の防災力向上へ

報告会の最後には、今回の経験を青森県内の防災対策へ還元するための提言が行われました。

派遣教員らは、
・避難所設営・運営を担う専門人材の育成
・平時からの避難所演習の充実
・段ボールベッドやトイレ環境を含めた避難所整備の事前計画化
・被災者のニーズを把握する仕組みづくり
などの必要性を訴えました。

冨澤研究科長は、今回の支援を通じて「人と物があっても、それだけでは避難所は機能しない」と指摘し、避難所運営や生活環境整備に関する専門的知識を持つ人材の重要性を強調しました。

初動対応の遅れから生じるリスクについて説明する冨澤研究科長

初動対応の遅れから生じるリスクについて説明する冨澤研究科長

派遣教員らの労をねぎらう福田学長

派遣教員らの労をねぎらう福田学長

最後に

被災地で受け入れてくださった自治体の皆さまをはじめ、一般社団法人避難所・避難生活学会、青森県、弘前市、青森県社会福祉協議会、一般社団法人男女共同参画地域みらいねっと、SAVE LIFEあおもり実行委員会、また、現地で活動をともにした関係機関・団体、学生ボランティアの皆さまに多大なるご協力をいただきました。この場をお借りして、すべての関係者の皆さまに深く感謝申し上げます。

本活動は、平時からの避難所演習や防災活動を通じて築いてきた産学官民のネットワークに支えられて実現したものです。特に、演習や訓練の場で培われた「顔の見える関係」は、被災地においてもそのまま機能し、迅速な情報共有や円滑な連携を支える大きな力となりました。

弘前大学では、今回得られた知見を今後の教育・研究活動や地域の防災力向上に生かし、関係機関との連携をさらに深めながら、災害時に誰もが安心して生活できる避難所環境の実現を目指していきます。

支援チームの集合写真

支援チームの集合写真