水平リサイクル可能なゴムの丈夫さの秘密を解明 ― リサイクル後も高性能を維持する高分子材料設計へ知見提供 ―
2026.10.14
研究
プレスリリース内容
本研究のポイント
- 水平リサイクル注1可能で、天然ゴムに匹敵する高い壊れにくさ(破壊エネルギー注250 MJ/m³程度)を持つゴムについて、その丈夫さを生み出す仕組みを解明した。
- 一軸伸長機構付きAFM注3と小角X線散乱(SAXS)注4を組み合わせ、ゴムを最大8倍まで伸ばした際の微粒子の変形を直接観察した。
- 微粒子内部の架橋注5が少ないと粒子全体が滑らかに変形し、多いと粒子表面に損傷が生じることを見いだした。この変形の違いが、ゴムの硬さと伸びやすさのトレードオフを生み出していることを明らかにした。
- 微粒子の変形のしやすさが材料全体の力学特性を決めることを示し、高性能な循環型高分子材料の設計指針を提供する。
研究概要
名古屋大学大学院理学研究科の内橋 貴之 教授、岡山大学学術研究院環境生命自然科学学域の鈴木 大介 教授、弘前大学大学院理工学研究科の呉羽 拓真 助教らの研究グループは、水平リサイクルが可能でありながら高い壊れにくさを持つ、高分子微粒子注6からできたゴムについて、その丈夫さが生まれる仕組みを明らかにしました。
近年、資源を有効に利用するため、使用後も品質を維持したまま再利用できる「水平リサイクル」が注目されています。しかし、ゴム材料は一般に複雑な構造を持つため、リサイクルが難しいという課題があります。こうした中、高分子微粒子から構成されるゴム材料が、水平リサイクル可能でありながら、添加物を含まない天然ゴムに匹敵する高い壊れにくさを示すことが見いだされました。一方で、微粒子からできたゴムが、なぜ高い壊れにくさを示すのか、その仕組みは明らかになっていませんでした。
本研究では、微粒子内部の架橋構造を変化させたゴム材料について、初期長さの8倍に及ぶ大きな伸びの中で生じる構造変化を、一軸伸長機構付きAFMによる直接観察と小角X線散乱(SAXS)解析を組み合わせて調べました。その結果、粒子内の架橋が少ない場合にはゴムを構成する微粒子が滑らかに変形する一方、架橋が多い場合には粒子内部の変形が抑えられ、粒子表面の粗化(損傷)が生じることを見いだしました。さらに、このような微粒子の変形の違いが、架橋量の増加に伴ってゴムが硬くなる一方で伸びにくくなるというトレードオフに対応することを明らかにしました。本研究成果は、高い性能を維持しながら繰り返し利用できる循環型高分子材料の設計に向けた基盤的知見を提供します。
本研究成果は、2026(令和8)年10月13日(米国東部時間)付で米国の科学雑誌「ACS Applied Materials & Interfaces」にオンライン公開されました。
研究背景と目的
持続可能な社会の実現に向けて、プラスチックやゴムなどの高分子材料を繰り返し利用するリサイクル技術が重要になっています。特に、使用後の材料を同じような用途に再び利用する「水平リサイクル」が求められています。しかし、ゴムは丈夫で長く使えるように、分子同士が複雑につながった網目状の構造を持っています。また、製品にはさまざまな添加剤も使われています。そのため、使用後のゴムを元と同等の材料に戻す水平リサイクルは容易ではありません。
この課題に対し、岡山大学の鈴木教授らの研究グループは、数百ナノメートル(1ナノメートルは10億分の1メートル)の高分子微粒子を集めてゴムを作る新しい材料設計を見いだしました。この方法では、ゴムを微粒子まで分解し、再び微粒子を集めることで、材料を劣化なく繰り返し利用することができます。さらに、この材料は、微粒子だけからできているにもかかわらず、身の回りのゴム材料の原料である天然ゴムに匹敵する高い壊れにくさ(破壊エネルギー50 MJ/m³程度)を示します(T. Watanabe et al., Green Chemistry, 2023, 25, 3418.)。一方で、なぜ微粒子からできたゴムが丈夫なのか、その理由は分かっていませんでした。
そこで本研究では、ゴムを大きく伸ばしたときに、ゴムを構成する微粒子がどのように変形するのかを調べました。一軸伸長機構付きAFMとSAXSを組み合わせることで、粒子の表面と内部の変化を捉え、高い壊れにくさが生まれる仕組みを明らかにすることを目指しました(図1)。

図1.本研究の概念図。上半分:高分子微粒子(球)から成るゴム。青線は微粒子内部の架橋、黒点は架橋点を示す。架橋密度が低いゴム(左、青枠)は大きく伸びるのに対し、架橋密度が高いゴム(右、赤枠)は硬く脆化する(S-S曲線の縦軸は応力)。下半分:本研究のアプローチ。改良した一軸伸長機構付きAFMとSAXSを組み合わせ、大変形下(λ≒8)の微粒子変形を直接観察した。
研究の内容
研究グループは、鈴木教授らが合成した、粒子内部の架橋量が異なる高分子微粒子からできたゴムを対象に、内橋教授が専門とするAFMと呉羽助教が専門とするSAXSを組み合わせ、ゴムを大きく伸ばしたときの微粒子の変形を観察しました(図1)。
1.一軸伸長機構付きAFMで「ゴムの表面」を見る
内橋教授らは、独自に開発した一軸伸長機構付きAFMをさらに改良することで、ゴムを初期の長さの約8倍まで伸ばしながら、ゴムの表面を観察することに成功しました。その結果、粒子1個ごとの伸び方は架橋量によらずほぼ同じであるにもかかわらず、架橋が少ない場合には粒子表面が滑らかなまま変形するのに対し、架橋が多い場合には伸ばすにつれて粒子の表面が粗くなる(損傷する)ことが分かりました(図2)。この結果から、微粒子の中の架橋の量によって、伸ばされたときの微粒子の表面の変化の仕方が大きく変わることが明らかになりました。

図2.一軸伸長機構付きAFMの改良型伸長ステージ:ネジ機構で軸を押し下げ、クランプに固定した試料を引っ張ることで伸長した。低架橋の試料では、伸長に伴っても粒子表面は滑らかな状態を維持したのに対し、高架橋の試料では粒子表面が粗くなることが明らかとなった。
2.SAXSで「ゴムの内部」を見る
次に、SAXSを用いて、伸ばしているときのゴムの内部がどのように変化するのかを調べました。その結果、架橋が少ない粒子と比べて、架橋の多い粒子では、伸ばした方向に沿った内部構造の変化が起こりにくいことが分かりました(図3)。
3.微粒子の変形とゴムの丈夫さの関係
一軸伸長機構付きAFMとSAXSによる観察結果を組み合わせることで、微粒子の変形とゴムの力学特性との関係が明らかになりました。架橋が少ない場合には、微粒子の内部まで変形しながら、個々の微粒子が滑らかに伸びます。一方、架橋が多い場合、粒子を構成する分子鎖の変形が抑制され、微粒子の内部が変形しにくくなり、その結果、粒子の表面に粗さ(損傷)が現れます。このような変形の違いが、架橋密度の増加に伴うゴムの硬さの上昇と伸びの低下(ヤング率注7 1.6 → 19.3 MPa、破断ひずみ注8 1381% → 633%)と対応することが分かりました(図4)。
今後の展開・社会的意義
本研究では、水平リサイクル可能な高分子微粒子からなるゴムについて、「なぜこの材料は丈夫なのか」という問いに対し、ゴムを構成する一つひとつの微粒子の変形という観点から、その仕組みを明らかにしました。
微粒子の中の架橋密度によって粒の変形の仕方が変わり、それがゴム全体の硬さや伸びやすさと対応することが分かったことで、高い力学特性を持つ材料を作るために、微粒子をどのように設計すればよいかを考える上で重要な知見が得られました。
本研究で得られた知見は、水平リサイクルによって材料を繰り返し利用する際にも、必要な性能を維持できる高分子材料の設計につながることが期待されます。また、一軸伸長機構付きAFMとSAXSを組み合わせて、伸ばしている最中の材料の表面と内部を調べる手法は、微粒子から成るさまざまな高分子材料の変形メカニズムを理解するための有効な解析手段となることが期待されます。
研究体制・研究支援
本研究は、岡山大学、名古屋大学、弘前大学による共同研究として実施されました。
本研究は、以下の支援を受けて行われました。
- 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 CREST(JPMJCR21L2)
- 高エネルギー加速器研究機構(KEK)フォトンファクトリー共同利用実験(2024G044、2026G064)
用語説明
- 注1 水平リサイクル:使用済みの材料を、元の材料と同等の品質を保ったまま、再び同じような用途の材料として利用するリサイクル方法。本研究のゴム材料では、微粒子に戻した後、再び微粒子を集めることで材料を繰り返し利用できる。
- 注2 破壊エネルギー:材料が引っ張られて破断するまでに吸収できるエネルギーを、材料の体積あたりで表した量。応力ひずみ曲線の下の面積に相当し、値が大きいほど壊れにくい。単位はMJ/m³(1立方メートルあたりのエネルギー)。
- 注3 一軸伸長機構付きAFM(一軸伸長機構を搭載した探針走査型高速原子間力顕微鏡):原子間力顕微鏡(AFM)は、非常に細い探針で試料表面をなぞり、その凹凸をナノメートル(10億分の1メートル)スケールで観察する顕微鏡。名古屋大学の内橋教授らは、試料ではなく探針側を動かして走査する「探針走査型」の高速AFMを開発してきた。この方式では試料の下側に空間を確保できるため、他の装置を組み合わせやすいという特長がある。本研究ではこの特長を生かして試料側に一軸伸長機構を組み込み、ゴムを伸ばしている途中の表面を観察することを可能にした。また、高速AFM由来の高速な探針高さ制御により、柔らかいゴムの表面を傷めずに安定して観察できる。
- 注4 小角X線散乱(SAXS):試料にX線を当て、X線の散らばり方から、材料内部にあるナノメートル~数百ナノメートル程度の構造を調べる手法。本研究では、ゴムを伸ばしたときに、微粒子の内部構造がどのように変化するかを解析した。
- 注5 架橋:高分子の長い分子鎖同士をつなぐこと。また、そのつながりによってできる網目状の構造を架橋構造という。架橋が多いほど分子鎖の動きが制限され、一般に材料は硬くなり、伸びにくくなる。本研究では、微粒子内部の架橋の量によって、微粒子の変形の仕方が変化することを明らかにした。
- 注6 高分子微粒子:高分子からできた、直径が数百ナノメートル程度の非常に小さな粒。本研究では、この微粒子を集めることでゴム材料を作製している。
- 注7 ヤング率:材料の硬さ(変形しにくさ)を表す量。変形が小さい範囲で、加えた力(応力)と生じた変形(ひずみ)の比として定義される。値が大きいほど硬い材料であることを示す。
- 注8 破断ひずみ:材料が引っ張られて破断するまでに、元の長さに対してどれだけ伸びたかを表す割合(%)。値が大きいほどよく伸びる材料であることを示す。
論文情報
■ タイトル:Nanoscale analysis of large deformation of tough microparticle‑based polymer films revealed by atomic force microscopy and small-angle X-ray scattering
■ 著者:Yuichiro Nishizawa‡, Natsuki Watanabe‡, Feng-Yueh Chan, Yuma Sasaki, Yusuke Shinozaki, Haruka Minato, Daisuke Suzuki*, Keita Namba, Takuma Kureha*, Takayuki Uchihashi*(‡共同筆頭著者、*責任著者)
■ DOI:10.1021/acsami.6c13253
詳細
プレスリリース全文は こちら(1.58MB)
お問合せ先
弘前大学大学院理工学研究科
助教 呉羽 拓真(くれは たくま)
TEL:0172-39-3562
E-mail:t-kurehahirosaki-u.ac.jp
弘前大学理工・農生事務部
総務グループ庶務担当
TEL:0172-39-3510
E-mail:r_kohohirosaki-u.ac.jp



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