世界自然遺産の小笠原諸島に固有のグンバイムシで系統関係を解明~さらなる新種を発見し、種分化の要因を示唆~
2026.10.14
研究
プレスリリース内容
本件のポイント
- 世界自然遺産の小笠原諸島に固有のグンバイムシで、ゲノムワイドな一塩基多型による集団遺伝解析と系統解析を実施しました。
- 先行研究にもとづいて同定したオガサワラグンバイには、真のオガサワラグンバイだけでなく、新種サンドルグンバイも含まれていました。
- オガサワラグンバイにおけるテリハボクのホストレース(異なる植物を摂食する種内の集団)は、人間の植栽がきっかけで最近出現したことが考えられました。
- 寄主転換(摂食する植物の変化)と地理的隔離(生息する地域の分断)によって、固有グンバイムシが種分化した可能性が高いことが明らかになりました。
今回の成果は、海洋島における固有昆虫の種分化への理解を深め、小笠原諸島の世界自然遺産としての再評価に貢献することが期待されます。この成果は2026(令和8)年10月8日21時に国際学術誌「Zookeys」に掲載されました。
本件の概要
背景
海洋島には、大陸と隔絶された歴史から他の地域で見られない固有の動植物が数多く知られています。小笠原諸島は、100を超える海洋島で構成され、世界自然遺産として知られています。世界自然遺産への登録には、陸貝や植物における海洋島に特有の進化現象の解明が貢献しました。昆虫では、進化現象の解明が遅れたことから、世界自然遺産への登録に貢献できませんでした。小笠原諸島の世界自然遺産としての再評価には、昆虫で進化現象の解明が求められます。
小笠原諸島は3つの島群(聟島列島、父島列島、母島列島)を含みます。同諸島に7固有種が記録されているオガサワラグンバイ属(植物を摂食するカメムシの一群、グンバイムシ)では、オガサワラグンバイ以外の6種が特定の植物種のみを摂食し、特定の列島にのみ分布します。また、同じ植物を摂食する複数種が異なる列島に分布し、異なる植物を摂食する複数種が同じ列島に分布します。分布域が複数の列島にまたがるオガサワラグンバイは、シマシャリンバイが主要な寄主植物(摂食する植物)ですが、父島列島でのみテリハボクのホストレース(異なる植物を摂食する種内の集団)が知られます。したがって、本属で寄主転換(摂食する植物の変化)と地理的隔離(生息する地域の分断)の種分化への関連を検証することは、昆虫における海洋島に特有の進化現象の解明に繋がります。
内容
相馬 純 助教(弘前大学農学生命科学部附属白神自然環境研究センター)と中濱 直之 助教(大阪公立大学農学研究科環境動物昆虫学研究グループ)は、異なる列島(父島列島、母島列島)と植物(シマシャリンバイ、テリハボク)から採集し、先行研究にもとづいて同定したオガサワラグンバイに対して、MIG-seq(ハイスループットシーケンシング技術を用いたDNA分析法の一つ)で取得した一塩基多型による集団遺伝解析を実施しました。
Neighbor-Net解析と主成分分析の両方で、父島列島と母島列島の個体群間に強い遺伝的分化が示されました(図1,2)。同時に、シマシャリンバイとテリハボクのホストレース間に弱い遺伝的分化が示されました。他方で、オガサワラグンバイ属のうち、ホロタイプ(種の基準となる標本)しかないムコジマグンバイ以外の種に対して、ゲノムワイドな一塩基多型による系統解析を実施しました(図3)。系統樹では、先行研究にもとづいて同定したオガサワラグンバイが多系統(異なる祖先に由来するまとまり)でした。集団遺伝解析で強い遺伝的分化が示された父島列島と母島列島のオガサワラグンバイは、それぞれ単系統(共通の祖先とその子孫すべてを含むまとまり)でした。つまり、これまでオガサワラグンバイとして扱われていた形態種(形で認識した種)に、2種の混同が判明しました。形態形質(形の特徴)を再検討したところ、集団遺伝解析と系統解析に一致する差異が見出されました。さらに、オガサワラグンバイのシンタイプ(種の基準となる標本)がどの列島で採集されたか改めて調べ直したところ、父島列島と判明しました。以上のことから、先行研究にもとづいて同定したオガサワラグンバイのうち、父島列島のものを真のオガサワラグンバイ、母島列島のものを新種サンドルグンバイOmoplax sandoru Souma, 2026と判断しました。新種の名前は寄主植物であるシマシャリンバイの小笠原諸島での呼び名(アレキサンドル、サンドルノキ)が由来です。
系統樹では、オガサワラグンバイとカルベグンバイが姉妹群(共通の祖先に由来する2つの異なるまとまり)でした。両者はともにシマシャリンバイを摂食し、異なる島に分布します(媒島をのぞく)。オガサワラグンバイのみ摂食するテリハボクは、小笠原諸島で移入種とされています。テリハボクのホストレースには、人間活動に伴う最近の形成を想定するのが妥当です。よって、オガサワラグンバイとカルベグンバイにおける種分化の要因に地理的隔離が考えられました。一方、サンドルグンバイとハハジマグンバイも姉妹群でした。両者はともに母島列島に分布し、異なる植物(シマシャリンバイ、キンショクダモ)を摂食します。したがって、サンドルグンバイとハハジマグンバイにおける種分化の要因に寄主転換が考えられました。オガサワラグンバイ属の種分化に寄主転換と地理的隔離が貢献した回数は、さらなる研究で確かめる必要があります。
意義と展望
昆虫における海洋島に特有の進化現象は、進化生物学的に興味深いだけでなく、小笠原諸島の世界自然遺産としての再評価に資する研究テーマです。本研究はグンバイムシを材料として、ゲノムワイドな一塩基多型による集団遺伝解析と系統解析を実施し、種分化の要因として寄主転換と地理的隔離を示しました。今後、網羅的なサンプリング(ホロタイプしかないムコジマグンバイ含む)とさらなる解析を実施し、グンバイムシを小笠原諸島の昆虫における種分化研究の代表例とすることを目指しています。同時に、他の昆虫でも種分化研究の準備を始めています。これらの取り組みを通じて、小笠原諸島の昆虫における進化史の理解を大きく進展させたいです。
本研究で個人的に面白いと感じたのが、オガサワラグンバイにおけるテリハボクのホストレースです。テリハボクは父島(小笠原諸島で最初に訪れることになる有人島)の市街地によく植栽されている樹木です。経験談ですが、おがさわら丸(小笠原諸島への唯一の交通手段となるフェリー)から下船して10分以内に、このホストレースを見つけました。島へ行けば誰でも簡単に出会える存在ながら、(恐らく)人間活動によってもたらされた種分化の初期段階にある存在です。海洋島の固有昆虫では、移入植物により生息地が狭められると思われがちですが、テリハボクのホストレースのような事例もあります。固有グンバイムシの「身近な進化の萌芽」を島の方へ情報発信し、小さな虫(体長3ミリ前後)の大きな虫に負けない魅力を伝えていきたいです。
論文情報
■ 著者:Jun Souma & Naoyuki Nakahama
■ 掲載誌:Zookeys
■ DOI:10.3897/zookeys.1294.205145
資金援助
本研究の一部はJSPS科研費(JP24K17897)と環境省・(独)環境再生保全機構の環境研究総合推進費(JPMEERF20244RB3)の助成を受けました。
詳細
プレスリリース全文は こちら(1.18MB)
お問合せ先
弘前大学 農学生命科学部附属白神自然環境研究センター
助教 相馬 純(そうま じゅん)
E-mail:jun.soumahirosaki-u.ac.jp
※メールでお問い合わせください




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