弘前大学

捕食者による被食者の成長戦略の分化を実証

2026.07.08

プレスリリース内容

本件のポイント

  • 捕食者による被食者の生活史戦略の多様化を示唆した。
  • 成長段階に応じた防御形質への投資割合の被食者種ごとの変化を解明した。
  • カタツムリに見られる種特異的な籠城型/迎撃型の対捕食者戦略とよく合致するように生活史をも種間で分化させていることを新たに発見した。

本件の概要

北海道に生息するヒメマイマイ Karaftohelix (Ainohelix) editha とエゾマイマイ K. (Ezohelix) gainesi は、核とミトコンドリアの複数の中立な DNA マーカーを用いても識別できないくらい近縁な、今まさに種分化の過程にある二種であると目されています(Morii et al., 2015)。オサムシ類からの攻撃に対してヒメマイマイは殻に引っ込んでやり過ごすというカタツムリ全般に見られる「籠城型」の対捕食者戦略を取るのに対し、エゾマイマイは殻を振り回して応戦する「迎撃型」の戦略を取るなど、非常に多くの表現型に種間差が見られ、しかもそれらは全て捕食者に対する適応であると考えられており、両種は共通の捕食者(オサムシ類)によって種分化した可能性が示唆されています(Morii et al., 2015, 2016)。

ヒメマイマイとエゾマイマイの種間差としてこれまでに、体サイズ、殻形態、殻の微細構造、殻の成分組成、捕食者に対する行動、日周性などに差異が見出されていましたが(e.g. Morii et al., 2016, 2023; Le Ferrand and Morii, 2020)、孵化から成貝になるまでの成長戦略にも違いがあることが本研究により明らかになりました。ヒメマイマイは幼貝の頃から殻を厚く成長させるのに対し、エゾマイマイは成貝になるまで殻への投資を抑えるという、それぞれの対捕食者戦略に応じた正反対の戦略を取っていることが新たに示されました。

研究手法・成果

ヒメマイマイとエゾマイマイを対象に、孵化したばかりの幼貝から成貝に至るまで幅広い成長段階の個体を野外から採集し、殻、軟体部、生殖器に分けてそれぞれの重さや大きさを測ることによって、種ごとの成長戦略を統計的に評価しました。成長段階の指標として横軸にlog変換した全体の重量を置き、様々な形質の値を種ごと、個体群ごと、成熟段階ごとにプロットすると、両種はそれぞれに異なる成長戦略をもつことが明らかになりました。例えばヒメマイマイでは予想通り幼貝の頃から殻へ多くのエネルギー投資を行っており成熟間際の幼貝では殻の重量が全体の重量の15–35%ほども占めているのに対し、エゾマイマイでは孵化後から成熟前まで等しく概ね10%以下に抑えられていました。殻の厚さについてもマイクロメーターを用いて測ってみると、ヒメマイマイはエゾマイマイよりも明らかに厚い殻を幼貝の頃から持っていました。

陸産貝類では殻の成長が全体の成長速度の律速となっていると考えられることから、本研究の結果はエゾマイマイがより早く成長できるよう幼貝期に殻への投資を抑えていることを示唆していると思われます。オサムシ類に食べられやすい幼貝期を一足飛びに逸早く成貝のサイズに達するという戦略を取っているのでしょう。他方で籠城型の対捕食者戦略を取るヒメマイマイでは、オサムシ類に殻を食い破られることのないよう幼貝期から固い殻を作る必要があると予想されます。籠城型/迎撃型それぞれの種特異的な対捕食者戦略とよく合致するように生活史をも種間で分化させていることを、本研究の結果は示しています。生活史戦略の分化と種分化との議論をつなぐ貴重な研究になると思われます。

本研究成果は、2026年7月5日に英国の国際学術誌「Journal of Zoology」に掲載されました。

論文情報

■ 雑誌名:Journal of Zoology
■ タイトル:Diversification of growth strategies as antipredator adaptations among closely related land snails(近縁なカタツムリ種間に見られる対捕食者適応としての成長戦略の多様化)
■ 著者名:森井 悠太
■ DOI:https://doi.org/10.1111/jzo.70131

詳細

プレスリリース全文は こちら(623KB)

お問合せ先

弘前大学農学生命科学部 准教授 森井 悠太
TEL:0172-39-3823
E-mail:ym0213hirosaki-u.ac.jp